ーーヒナちゃん、モデルしてみません?
 ずっとお世話になっている美容師の容子(ようこ)さんに、そう持ちかけられたのは去年の終わりのこと。今度の春に、美容室が何店舗か集まってタウン誌で特集を組むらしい。その担当に、スタイリストになって二年目の容子さんが抜擢されたのだそうだ。
「職場が変わったり学校が変わったり、春ってやっぱり新しい気分になるじゃないですか。それで、『新しい自分』ってテーマで考えたら、モデルもプロの人より素人さんの方がおもしろいかも、って思って。誰がいいかなー、って思ったらヒナちゃんが思い浮かんで」
 鏡越しににっこり容子さんが笑う。
「ていうか、もうヒナちゃんしか思い浮かばなくなっちゃって。やってくれますよね? ね?」
 容子さんは強引なところがあって、いつの間にか彼女のペースに引きずられていることがしょっちゅうだ。ばっさり髪を切った時も、パーマをかけた時も、容子さんが絶対似合う、と言い出して、半分されるがままだった。
「無理ですよ、モデルなんて」
「大丈夫、ずーっとヒナちゃんを見てきた私が言うんだから間違いない!」
「でも私、カメラに向かってうまく笑ったりポーズとったりできる自信ないです」
「それも心配無用! モデルっていっても、スタジオで撮るわけじゃなし、スナップ写真を撮るみたいに気楽に思ってもらえればおっけーですから。それに、カメラマンも信頼できる人にお願いしてるから、緊張してても大丈夫。絶対キレイに撮ってもらえる!」
 でも、と渋る私に強引に畳み掛け、容子さんはいつも通り半ば無理やりその話を推し進めていった。
「楽しみにしててくださいね。新しいヒナちゃん、見せてあげるから」