「そんな酔い方するやつだったか?」
「別に酔ってません」
「さっき自分で酔ってるかもって言ってたじゃねえか」
 もうやめとけ、という沢木さんから、無理やりグラスを奪い返す。
「参考までに聞いとこうと思っただけですよ」
「なんの参考だよ?」
「一般的に恋愛がどう進行していくのか、です」
「お前だって散々いろんなのと付き合って来ただろうが」
「あんなの恋愛じゃないですから」
 グラスの中身を一気に空けた。アルコールが頭の中を麻痺させていくのが自分でもわかる。
「なんでみんな、そんな簡単に好きだなんて言えるんだろう」
 どうして俺は、好きだというその一言を、こんなにも躊躇うのだろう。
「自分に自信がないだけなんじゃねえの?」
 沢木さんが呆れたように言った。
「あの子は十分強い。別にお前が幸せにしてやろうとか、そんなこと思わなくてもいいと思うぞ?」
 彼女の強さは俺だって嫌ってほど知っている。俺の力なんてなくたって、自分で幸せになれるだろう。だからこそ。
「自信が持てない人間のそばにいるより、自信満々に自分を好きだって言ってくれる人間のそばにいるほうが、幸せになれると思いませんか?」
 俺なんかより、松田君のそばにいるほうが。
「それはお前じゃなくて、あの子が決めることだろ」
 決めつけないで、と言ういつかの彼女の強い声が、脳裏に蘇る。
 沢木さんの言っていることも、日南子ちゃんの言いたいこともわかる。それでもどうしても、自分のそばで彼女が幸せになれるとは思えない。
「ねえ、ガク。今でも、優衣が死んだのは自分のせいだって思ってる?」
 理恵の声が、静かに響く。
「自分のせいで優衣は幸せじゃなかった、って思ってるの?」
 十年前にも繰り返した答え。
「だってそうだろ……」
 今だって思ってる。俺のそばにいなければ、優衣はもっと幸せになれた。
「違うわよ。優衣はちゃんと幸せだった。優衣は幸せじゃなかったなんて、そんな悲しいこと言わないで」
 とうとう泣き出してしまった理恵を、沢木さんがそっと抱き寄せた。