「悪い、遅くなったな……ってなんだ、葬式みたいなツラしてんな」
隣の席に座りながら、理恵の髪を無造作にかき回す。
「お前がガクに会いたいって言ったんだろうが。もっと楽しそうな顔しろよ、な?」
沢木さんにされるがまま、理恵は珍しく子供っぽく膨れてみせた。
「わかってるわよ。もう、やめて、ぐしゃぐしゃになっちゃうじゃない」
手を振り払おうとする理恵に笑いかける姿は、以前よりもさらに親密に見えて、改めてこの二人は夫婦になったんだな、と実感する。
「お疲れ様です」
「おう。お前も忙しそうなとこ呼び出して悪かったな。お詫びにおごってやるから、がっつり食えよ。わかったな?」
「じゃあ、有り難く」
俺に食事を摂らせる目的もあったんだろう。いつまでたっても沢木さんには心配かけてばかりで、申し訳なく思う反面、いつも気にかけてもらえることが嬉しかった。
初めの気まずい空気はそこで払拭されて、その後は和やかに時間が流れる。無理矢理にではなく食が進んだし、酒も飲んだ。久しぶりに楽しいと思える食事だったせいか、いつもより飲みすぎたかもしれない。
「そういえば、例のジュエリーショップの広告、見たぞ。いい出来だったじゃねえか」
四月のオープンに向けて、フリーペーパーやパトリのようなタウン誌にイノセントの広告が載った。評判は上々らしく、問い合わせの数やサイトのアクセス数も格段に上がったと、嶋中さんが上機嫌で電話をくれた。同業者からも評価が高く、あの写真を俺が撮ったと知っている人から褒め言葉をもらうこともあった。
「ヒナちゃん、すっごくきれいだったわね」
ステンドグラスの光を浴びて微笑む彼女の姿は、無垢なのに深い慈しみに満ちていた。あたたかで穏やかな未来を予感させるような、そんな美しさだった。
あの時だからこそ撮れた表情だ。きっともう、あの表情は俺には撮れない。
「お前の写真は、わかりやすいよな」
沢木さんが呟いた言葉の意味が分からずに、聞き返す。
「わかりやすい、って何がですか?」
「被写体以上に、撮り手の感情が反映されやすい、ってこと」
撮り手の感情……俺の、感情。
「反映、されてました?」
「まあ、あの子の感情も多分に入ってるから、お前の感情だけってわけじゃないだろうがな」
隣の席に座りながら、理恵の髪を無造作にかき回す。
「お前がガクに会いたいって言ったんだろうが。もっと楽しそうな顔しろよ、な?」
沢木さんにされるがまま、理恵は珍しく子供っぽく膨れてみせた。
「わかってるわよ。もう、やめて、ぐしゃぐしゃになっちゃうじゃない」
手を振り払おうとする理恵に笑いかける姿は、以前よりもさらに親密に見えて、改めてこの二人は夫婦になったんだな、と実感する。
「お疲れ様です」
「おう。お前も忙しそうなとこ呼び出して悪かったな。お詫びにおごってやるから、がっつり食えよ。わかったな?」
「じゃあ、有り難く」
俺に食事を摂らせる目的もあったんだろう。いつまでたっても沢木さんには心配かけてばかりで、申し訳なく思う反面、いつも気にかけてもらえることが嬉しかった。
初めの気まずい空気はそこで払拭されて、その後は和やかに時間が流れる。無理矢理にではなく食が進んだし、酒も飲んだ。久しぶりに楽しいと思える食事だったせいか、いつもより飲みすぎたかもしれない。
「そういえば、例のジュエリーショップの広告、見たぞ。いい出来だったじゃねえか」
四月のオープンに向けて、フリーペーパーやパトリのようなタウン誌にイノセントの広告が載った。評判は上々らしく、問い合わせの数やサイトのアクセス数も格段に上がったと、嶋中さんが上機嫌で電話をくれた。同業者からも評価が高く、あの写真を俺が撮ったと知っている人から褒め言葉をもらうこともあった。
「ヒナちゃん、すっごくきれいだったわね」
ステンドグラスの光を浴びて微笑む彼女の姿は、無垢なのに深い慈しみに満ちていた。あたたかで穏やかな未来を予感させるような、そんな美しさだった。
あの時だからこそ撮れた表情だ。きっともう、あの表情は俺には撮れない。
「お前の写真は、わかりやすいよな」
沢木さんが呟いた言葉の意味が分からずに、聞き返す。
「わかりやすい、って何がですか?」
「被写体以上に、撮り手の感情が反映されやすい、ってこと」
撮り手の感情……俺の、感情。
「反映、されてました?」
「まあ、あの子の感情も多分に入ってるから、お前の感情だけってわけじゃないだろうがな」