「別にそんな、必死で説明してくれなくていいよ」
 俺の声に、二人が同時にこちらを向いた。
「俺だって前、同じようなことしたし。気にしてないから」
 努めていつも通りを振舞う。本音を幾重にも重ねた檻の中に閉じ込める。
 日南子ちゃんが泣きそうに顔を歪めて、松田君が怒った口調で俺に詰め寄ってきた。
「気にしてないってどういうことだよ?」
「言葉通りの意味だけど」
「俺とヒナがなにしてもいいってこと?」
「俺が口を出すようなことじゃない」
 変わらない口調がきっと彼の怒りを掻き立てているんだろう。わかっているけど、感情をさらけ出すことがどうしてもできなかった。
「聞いただろ、ヒナ。この人、結局ヒナのことどうでもいいんだよ。もう戻ろう」
 松田君がもう一度日南子ちゃんの腕をとろうとするけど、彼女はそれを払いのけた。
「それ、本気で言ってますか?」
 ただ俺だけを見て言った。真っ直ぐにこちらの心を射抜く目。
「優衣さんじゃなくて私のことが好きって言ってくれたのは、嘘?」
 ーーその目で、見ないでくれ。
「……嘘じゃない」
「じゃあなんで目を逸らすの⁉」
 今まで抱えていたものが爆発したような、そんな激しい声だった。
「ちゃんと本音で話してくれなきゃわからない! 私のこと、本当はどう思ってるの? 私はまだ待ってていいの? それとも諦めなきゃならないの?」
 俺の腕を掴む手が震えていた。今までどれだけの思いを押し殺してきたんだろう。そんな大きな思いを、受け止められるほどの余裕なんてない。
「もう、待たないで」
 彼女が目を見開いた。
「ずっと曖昧なままでごめん。もう待たないで欲しい」
 大きな目から、涙が一粒こぼれ落ちた。
 ーーああ、とうとう泣かせてしまった。
「どうして?」
 ぽろぽろと、涙が次から次へと溢れ出していく。
「私のこと、嫌いになった? もうどうでも良くなった?」
「そんなんじゃない」
「じゃあなんで!? 嫌いになったんなら嫌いになったって、はっきり言ってよ!」
 すがってくる腕を、そっと引き剥がした。嘘でもなんでも、嫌いになったと告げた方が、よほど彼女のためなんだろう。
 それでも、俺には言えなかった。
「……ごめん」
 謝る以外の言葉を、俺は持っていない。
 くずおれる彼女に背を向けて、足早にそこから離れた。