周りからの祝福を受けながら舞台の真ん中に並ぶと、校長先生から表彰状が贈られる。代表して西さんが受け取って、誇らしげに高々と掲げてみせた。そして、リサさん、西さん、小川さん、宇野さんの四人が、手をつないでランウェイを歩き出す。客席の知り合いに時折手を振りながら舞台の先まで行って、せーの、と礼をした。戻ってくるその顔は、とっても楽しそう。
 不意に音楽が変わった。カルメンの時に使ったもので、それを聞いて保志さんが行くよ、と愛香の手を取った。
「え?」
 驚いて保志さんを見ると、面白そうに笑って目配せする。
「なんのために着替えなかったと思ってるの? 主役は僕たちだよ」
 じゃあお先に、と保志さんが戸惑う愛香を促して、二人並んで歩き出した。さっきの派手なやり取りは、演出だと思ってもらえているのかそうじゃないのか、客席から別の意味でおお、と歓声が上がる。ショーの時の空気とは裏腹に、二人はにこやかに歩いて、優雅に一礼して戻ってくる。
 続いて曲がシンデレラに変わった。行こっか、と差し出された潤平くんの手を取って、私たちも並んで歩き出す。
 さっきよりも周りの景色がよく見えて、改めてこんなにいっぱいお客さんがいたんだ、とびっくりした。舞台の先に目を走らせて桐原さんの姿を探すと、すぐに飛び込んできた。本当だ、こんなにわかりやすいところにいたんだ。
 先端まで来るとほんとに目の前にいて、なんでさっきわからなかったのか不思議なくらい。一礼して顔を上げるときに、カメラの向こうの目が笑っている気がして、なんとなく嬉しくなった。
 さあ戻ろうと後ろを向こうとした時、潤平くんにいきなり手を引っ張られた。
 なんだろう、と思う暇もなかった。何が起こったのか理解できないまま、潤平くんの手が私の頬を包んで、そのまま顔が近づいてくる。
 …………え?
 本当に一瞬だけど、潤平くんの唇が私の唇のすぐ横に触れて、離れていった。
 きゃー、という悲鳴が客席から聞こえてくる。私はぽかんとしたまま、潤平くんの手に引きずられるように、ランウェイを戻っていく。
 今、何が起こったの?
 状況が理解できなくて、元の場所に戻ってリサさんたちの唖然とした顔を見た時に、ようやく我に返った。
 瞬間、湧き上がってきたのは強い怒りだった。
「何すっ」
 抗議の声をあげようとする私を潤平くんが目で制する。
「まだ舞台上だよ」
 妙に冷静な声で言われて、ぐっと言葉を飲み込む。みんなの横に並ぶと、必死に怒りを押し殺した。まだここで、騒ぐわけにはいかない。
 愛香が気遣わしげな視線を寄こす。他のみんなもなんだかそわそわしてたけど、私は自分の気持ちを抑えるので精一杯だった。