会場にアナウンスが流れて、ショーのオープニングが始まる。近くの工業大学の学生とコラボレーションして作ったというアニメーション風の映像が、ステージ背後に設置された大きなスクリーンに映し出された。旅立っていく卒業生たちが、ひとりひとり紡いでいく物語……一瞬真っ暗になった会場に、『STORY』の文字が浮かび上がる。
 音楽が変わって、トップバッターのモデルさんが勢いよく飛び出していく。一番手のチームのテーマは、『進化していく自分の物語』。ステージ上で身につけているものを一つずつ外していくことで、どんどん服が変化していくデザインになっているらしい。変化するたび会場で拍手が起こっている。
 『STORY』というコンセプトからいろんな発想が生まれていて、みんな工夫を凝らしていた。私たちみたいによく知られた物語をテーマにしているチームもあれば、人生を物語に見立てて、モデルに子供や老夫婦を使っているチームもあった。
 自分の出番が近づいてくるのを感じながら、愛香は保志さんと、私は潤平くんと、いつの間にか自然と寄り添っていた。愛香が保志さんと小声で何か話しているのを横目で見ながら、潤平くんも私の耳元に顔を近づける。
「落ち着いてるじゃん。いつものヒナと大違い」
「みんなに言われたよ、それ。私が落ち着いてるの、そんなに意外?」
 軽く睨むと、潤平くんがくすくす笑う。
「じゃあ、思いっきり嫉妬させてやろうか」
 誰を、とはあえて言わない。
「嫉妬なんかしないよ、きっと」
「それはヒナ次第」
 今だけ俺に本気になって、と耳元で囁かれる。冗談の中に少しだけ本気の色が混じっているのを感じて、すっと離れる潤平くんの余裕の顔を、また軽く睨めつけた。
 少しは嫉妬してくれるのかな。どんな感情でもいい。私を見て、ありのままのむき出しの気持ちをぶつけて欲しい。いつものあの、全部押し隠した穏やかさを、少しでいいから崩したい。
 私たちの前の出番のモデルさん達が、ステージに出て行った。
 間近になるとやはり緊張して、少し表情が固まった私の手を、隣の潤平くんがぎゅっと握ってくれた。見上げると、さっきまでの余裕のまま、私を見て微笑んでいる。私も微笑み返した。うん、大丈夫。楽しむんだ。
 ステージからモデルが戻ってきて、音楽が切り替わる。一瞬後ろを振り返ると、リサさん達が腕を振り回して応援してくれていた。
「行くよ」
 前を向いた潤平くんが、私の手をもう一度強く握り直した。