「あの写真を見たら、わかる人にはすぐわかりますって。特集のタイトル、編集長があの写真見て決めたんですよ」
 タイトル……? ってなんだっけ?
「『新しいワタシ発見! 恋する春髪』」
「ってことは、いろんな人にバレバレってことですか? さっき、桐原さんも反対してたって」
「いや、ガクさんは、あれは練習で撮ったみたいなものだから、って出したがらなかったみたいなんですけど。でも、あの人そういうの鋭いからなあ」
 容子さんは止めていた手を再び動かしながら、落ち込む私をなんとか慰めようとしてくれた。
「でもほら、あの写真を撮ったのがガクさんだって知ってるのはほんと一部の人ですから。編集部の人と、あとうちのスタッフも数人くらいしか気付いてないと思う……」
「それだけバレてたら十分です」
「ですよね」
 告白なんてする間もなく本人にもバレバレなんて、愛香とぎゃあぎゃあ騒いでたのが馬鹿みたいだ。なんで私はこんなにわかりやすいんだろう。昔から隠し事なんてほとんどできなかった。それがいいとこなんじゃない、なんて軽く愛香は言ってたけど、こういう時は本当に困る。
「好きかどうか、実はよくわかんないんですけど。また会いたいなあ、とは毎日思ってます」
 もうこの際だからと開き直って、容子さんに相談してみることにした。
「でも私、桐原さんのことなんにも知らないし。今さらなんですけど、桐原さんって決まった相手はいるんですか?」
「結婚はしてないですよ。彼女も多分、いないと思います。でもなあ」
 一瞬言いよどんで、でもはっきりとした口調で容子さんが言った。
「私はガクさん、あんまりオススメできません」
 容子さんが、誰かに対して否定的なことを、そこまで断言するのは珍しい。
「……実は女ったらしとか?」
 恐る恐る聞くと、容子さんはうーん、と唸って、言葉を選ぶようにゆっくり話し始める。
「女ったらし、っていうわけじゃないんですけどね。なんていうか、本気の恋愛はしない、って決めてるみたいなんです。最初から遊びのつもりで近寄ってくる人としか付き合わないというか。実は美容師仲間で一人、ガクさんと付き合ってた子がいるんですけど、ちょっと本気になりかけたらすーっと離れていっちゃったんですって。それはもう、見事なほどにすっぱりと」