リサちゃんの作品はウェディングドレスで、カラードレスが二着と白ドレスが一着、それぞれ小物もコーディネートして、ドレスショップのように展示してあった。どれもリサちゃんらしく、ラインはシンプルだけど細部にこだわって作ってあって、今までドレスはいろいろ見てきたけど、そのまま式場で売り出せるくらいの出来だった。そういえば卒業後はドレス制作の仕事をするって言ってたっけ。
 一通り会場を回って受付に戻ると、ちょうどよく時間になって一般の来場者が入ってくる。前日もなかなかの人の入りだったらしいけど、今日も出だしは順調そうだ。学生の家族だろう、受付の子と親しげ話している人や、散歩の途中で覗いたような老夫婦、来年の新入生らしき高校生の群れなど、いろんな人が入ってきて、興味深そうに作品を眺めていく。
 しばらく会場をうろうろしながらその様子を撮っていると、スタッフの腕章をつけた学生が探しに来た。ショーのリハーサルが始まったらしい。案内されてショーの会場に移動すると、本番さながらに照明を落として、音楽も流してのリハーサルが繰り広げられていた。ステージ上を普段着のモデルが歩き、その下ではスタッフの学生たちが忙しそうに駆け回っている。進行や照明、その他もろもろを全て学生の手で行うと聞いていたけど、想像していたより本格的だ。懸命に走り回る学生たちを、カメラで追う。熱気がファインダー越しに伝わってきて、それを写し取るのに夢中になった。
 ふと背後から、視線を感じた。カメラをおろして振り返ると、こちらを見る日南子ちゃんの姿があった。
 ……本番まで顔を合わせないで済むかと思ったけど、やっぱり無理だったか。
 彼女は一瞬迷うような素振りを見せたけど、すぐにいつもの控えめな笑顔に戻って、こちらに向かって歩いてきた。俺も顔の筋肉を総動員して、なるべくいつも通りを装う。
「お久しぶりです」
「久しぶり。今から出番?」
「はい。私たちの順番、最後から二番目なんですよ」
 彼女の方も、どことなく元気がない気はするけれど、懸念していたよりも落ち込んだり、態度がおかしいことはなかった。もしかしたら、もうそれなりに吹っ切れているのかもしれない。
 その様子が少しだけ残念に思えて、また自分の身勝手さを思い知る。
「緊張してる?」
「それはもちろん。これからここがお客さんで埋まるのかと思うと、ドキドキします」
「客席なんて気にしないで、ただの人形だと思えばいいよ」
「リサさんにも言われましたよ。お客さんなんて、ジャガイモとタマネギとニンジンだよって」
 そう言って笑うその頭に、思わずうっかり手を伸ばして、途中で我に返る。無意味に触れない方がいいんだろうけど、もう伸ばしてしまった手を引っ込めるのも不自然で、結局そのまま頭を撫でた。
「頑張って」
「はい」
 はにかむその顔は、以前と少しも変わらなくて、抱き寄せたくなるのを必死で抑えた。
「じゃあ、行きますね」
「うん」
 気の利いたことも言えず、ただ立ち去る彼女の後ろ姿を見送った。