十近く年下の女の子に何を相談してるんだろう、とおかしくなるけど、不思議とリサちゃんには相手を素直にさせる力がある。
「今までほかの人にはガンガン手出してたのに?」
「今回は、今までとは違うから」
 違うから、俺にもどうしたらいいかわからない。
 それきり口を閉ざした俺に、リサちゃんは納得したようなしてないような、曖昧な顔で言った。
「とりあえず、ヒナちゃんは特別なんだってことはわかった。あと、ガクさんが意外と弱ってる、ってことも」
「弱ってる?」
「うん。今話してる時は、辛そうに見えた」
 さっきまでは全然わかんなかったけど、というリサちゃんの言葉に、少し安心した。とりあえず、リサちゃんをごまかせるくらいのポーカーフェイスは作れていたらしい。
「なんか複雑そうだから、もう首突っ込むのやめる」
 そう言うリサちゃんの態度から、さっきまでのトゲトゲしさは抜けていた。納得できないなりに、気持ちを収めることはできたんだろう。
 でも、とリサちゃんが続ける。
「リサ、ガクさんのことも好きだけど、ヒナちゃんのこともっと好きになっちゃったから、ヒナちゃんが幸せそうな方を応援する。……潤平くん、ずっと心配そうにヒナちゃんのこと見てた」
 今、日南子ちゃんのことを一番見ているのは、きっと彼だろう。
「うん。俺も、それでもいいと思ってる」
 そう言う俺を、リサちゃんがなんだか悲しそうな顔で見ていた。
 
 撮影に戻ったリサちゃんはすっかりいつも通りで、クライアントの希望である『心が浮き立つ感じ』をうまく表現していた。モデルとしての最後の仕事、と言っていたけど、満足いくものができたんだろう。撮り終わってモニターでチェックしている顔は、どこか晴れ晴れとしていて、帰る間際に改まって頭を下げてきた。
「今までありがとうございました。ガクさんとお仕事するの、一番楽しかった」
「こちらこそ、楽しかったよ。お疲れさま」
 へへ、と笑うその笑顔を、もう見れないのかと思うとなんだか寂しくなる。妹が家を出ていく気分、ってこんな感じだろうか。
「卒展のショーも、楽しみにしてるから。気合入れて撮るから、頑張って」
「うん! よろしくね!」
 手を振りながら出ていく姿を見送りながら、知らず知らずため息を吐く。それに目ざとく気づいた吉川が、恐る恐る近づいてくる。
「なんか道端さんとワケ有りなんすか?」
 どやされることを承知で聞いてくるんだから、こいつもたいがいミーハーだと思う。
「お前の単純さ、少し分けて欲しいよ」
「オレ、単純ですかね?」
 自覚してないなら重症だ。
「ガクさんが考えすぎなんだと思いますけどねえ」
 わかったようなことを言う吉川に、ご希望通りデコピンをかましてやった。