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 卒展も間近に迫った頃、雑誌以外の仕事でリサちゃんと一緒になった。駅前のファッションビルの、春のキャンペーンのポスター撮り。宣伝部が俺の写真を気に入ってくれて、いつも依頼してくれる。
 沢木さんのスタジオを借りて、吉川とともに準備をしていると、リサちゃんと担当者が一緒に入ってきた。リサちゃんは雑誌の時とは違って仕事用の顔で、笑みは絶やさないけれど、気安さやはしゃいだ様子は引っ込めていた。形式ばった挨拶を交わして、ヘアメイクの美容師も交えて簡単に打ち合わせをする。
 メイクをされながら、リサちゃんは一度もこちらに話しかけたり、打ち解けた様子を出さなかった。ヘアメイクが初対面の人だ、っていうのはあるかもしれないけど、俺が撮影の時は、いつもはだいたいこのくらいで砕けたムードになるのに、珍しいな、と思う。
 撮影に入っても、その態度は変わらなかった。きちんと笑顔を浮かべて空気も作るんだけど、普段の彼女を知っている俺にとってはなんだかやりにくい。この雰囲気は、あまり好きじゃないモデルの子と一緒の撮影になった時に似ている。完璧なまでの他人行儀。
「リサちゃん、なんか怒ってる?」
 試しに聞いてみると、明らかな作り笑いを返された。
「怒ってはないけど、聞きたいことはあるかな」
 ようやく敬語がとれたけど、まだまだよそよそしさが抜けない。
「聞きたいこと? 俺に?」
「うん」
「なんだろう」
「ガクさん、ヒナちゃんとセックスどころかキスもしてないってホント?」
 がしゃん、と後ろから派手な音が聞こえた。
「スミマセン! やべえ! やっべえ! セーフ?」
 レンズを落とした吉川が慌てて拾い上げている。気持ちはよくわかるし、壊れてはいないようなので許してやろう。
「それってなんで? 欲情しないってこと?」
「リサちゃん、そういう話は後で……」
「後回しにしたらガクさん適当にごまかすじゃん」
 だからといってなんの関係もない人の前で話せる話題ではない。ましてや今は仕事中。
 なんとか表情を崩さずに済んだけど、心の中はめちゃくちゃ動転していた。リサちゃんはさっきまでの作り笑いはどこへやら、完全にへそを曲げて怒った顔をしている。
「リサ、モデルのお仕事今日で最後なんだよね。できればすっきりして撮ってもらいたいんだけど」