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 今日もまた、会えなかった。
 本当に忙しいのか、それとも私がいることに気付いて避けられてるのか。どちらかはわからないけれど、何度か訪れたスタジオは、いつも無人だった。
 気を取り直してバス停に向かう。今日はこれからリサさんのところでショーの衣装の最終フィッティングだ。リサさんたちにとってこのショーは学生生活の集大成で、とっても大事なもののはずで、余計な心配はかけたくなかった。私だって、春から滅多に会えなくなるのに、最後の思い出を暗いものになんかしたくない。
 しばらく暗い顔はやめにしよう。校舎のビルに入る前に、軽く顔を叩いて気合を入れる。ガラスに向かって笑ってみた。よし、いつも通りだ。
 前回と同じ実習室に入ると、愛香と潤平くんは先に着いていて、みんなで仲良く話していた。
「ヒナちゃーん! お休み中なのに来てくれてありがと!」
 リサさんが私に気付いて近寄ってくる。いつもの元気の良さで抱きついてきて、私も負けじと抱きつき返した。
 前と同じように並べられていた服たちは、手を加えられてさらに洗練されていた。
「今日は最終的なサイズとかバランスの調整ね。簡単なテストメイクもさせてもらうから」
 宇野さんが大きな黒のバッグを持ち上げる。容子さんも似たようなバッグを持っていたし、メイク道具を収納してあるんだろう。
「ランウェイを歩く練習もしてもらいまーす」
 小川さんが宇野さんの後ろからひょこっと顔を出した。
「歩く練習、ですか?」
 愛香が困惑気味に言った。ショーなんて全く未経験の私たちは、練習云々の前にランウェイがどんなものかすらわからない。
「心配しなくても大丈夫。ここにプロがいるから」
 戸惑う私たちに、西さんが宇野さんを指差して言った。
「プロ?」
「元、ね」
 宇野さんがなんでもないような顔で頷く。
「紗雪は高校の時、東京でモデルやってたんだ。ショーとかも結構出てたんだって」
 そんな大層なものじゃないけど、と宇野さんが苦笑する。
 確かに、背も高いし姿勢も綺麗だし、元モデル、というのがすんなり納得できる。綺麗な人だとは思ってたけど、そういう過去があったんだ。なんで今はモデルをやめて東京ではなくこんな地方で暮らしているのかは、すごく謎だけど。
「裏方の仕事のほうが楽しそう、って思ったのよ。きれいにしてもらうより、誰かをきれいにすることのほうがやりがいがありそう、ってね」
 私の表情を見て、宇野さんが説明してくれた。また、考えてることが顔にでちゃってたみたい。