『ちゃんと話がしたいです。お時間ありますか?』
 見覚えのある文面に、もう一度送信元を見返す。間違いなく日南子ちゃんだった。
 きたか、と思った。ちゃんと謝って、すっぱり会わなくなったほうが、きっと彼女のためにはいいんだろうと思う。周りには慰めてくれる友達もいるし、松田君もいる。そうわかっているのに、俺にはまだはっきりと別れを切り出す勇気が出なかった。別れ、っていうのも変か。まだ付き合ってもいないんだし。
 あれこれ考えて、結局仕事が忙しくて時間が取れない、と返信した。要は、また逃げたのだ。
 このままにしておくわけにはいかないけど、今はまだ、彼女の前で平気な顔をできる自信がない。距離を置いて、リサちゃんのショーまでにはなんとか平静を保てるようにしておきたかった。会わないうちに俺に呆れて、松田君と付き合ってしまっても、それでいいと思っていた。
 そんな俺に、彼女は直接会いに来た。
 仕事を終えて事務所に戻ろうとした時、運転席から入口に立つ人影が見えた。咄嗟に曲がるのをやめてそのまま通り過ぎ、少し進んだ先で車を止める。
 日南子ちゃんだった。一瞬しか見えなかったけど、多分間違いない。
 いつからあそこにいるんだろう。晴れているとは言え、真冬の外気に晒されて長時間立っているなんて、無茶すぎる。戻るべきだろうか、戻って一言、もう来ないでくれと言えばいいのだろうか。
 散々逡巡した挙句、俺は戻ることができなかった。時間を潰してから帰るともう彼女はいなくて、逃げ回るだけの自分が心底情けなかった。