俺の言葉に、彼女は少し目を見開く。
「どうしたんですか、いきなり」
「あの後反省したんだよ。昔は物分りのいい子だな、なんて勝手に思い込んでたけど、本当は無理させてたのかなって」
 黙って俺をじっと見る彼女に、今度はこっちが頭を下げた。
「いろいろ、辛い思いさせてたんなら。ごめん」
 口を開かない彼女の目に、突然涙が溢れ出した。
「え、あ、ごめん?」
 また何か傷つけるようなことを言っただろうか。咄嗟に置いてあった紙ナプキンを渡すと、彼女はひったくるように受け取った。
「だから、そういうのダメなんですって。こんな昔ちょっと手を出しただけの女に、謝ってどうするんですか」
 涙を押さえながら、なんだか怒ったように言う。
「あの時は、ちゃんと付き合ってるつもりだったけど」
「そんなの、つもり、です。私のこと好きでもなんでもなかったでしょう?」
 そう言われて、言葉を返せない。
「愛されてたなんて、そんな思い上がれるほど馬鹿じゃありません。ずっと違う人見てたくせに」
「そんな風に見えた?」
 優衣のことは、彼女には何も話していない。昔結婚していたことも。
「見えましたよ。私に笑いかけながら、目は私の後ろを見てた。ああ、私は身代わりなんだ、って悲しかった。でも、それでもいいと思ってたんです」
 この前の日南子ちゃんと、同じことを言う。
「それって辛かった? 身代わり、って」
「辛かったですよ、当たり前じゃないですか。私以外の人のことなんて、考えて欲しくないに決まってます」
 ぼろぼろ泣きながら怒る彼女を見て、ああやっぱり、無理をさせてたんだな、と思う。
 そして今、日南子ちゃんにも同じ思いをさせているんだと。
「ごめん」
 何度目かの謝罪の言葉に、ようやく泣き止んだ美咲ちゃんが呆れたように言った。
「だから、謝っちゃダメですって。私だって、辛かったけど、一緒に居られたら嬉しかったんです。今はもう、感謝しか残ってません」
 だから、ちゃんと幸せになってください。
 そう笑う彼女に、ただ笑い返すしかできなかった。