「なんか隠してるだろ?」
 潤平くんが私の顔をじっと覗き込んで言った。
「え? なんにも隠してなんかないよ?」
「嘘つけ。ヒナが落ち込んでるのなんてバレバレなんだよ。自分が嘘つくの下手なこと、わかってないの?」
 いつも通り振舞っていたつもりなのに、なんでこんなに周りに見抜かれてしまうんだろう。
「愛香が気にしてたよ。またなんか悩んでるのに、全然話してくれないって」
「悩んでなんか、ないんだけどな」
 そう笑って見せるのに、潤平くんはごまかされてくれない。
「あの人と、なんかあった?」
 心配そうに尋ねる潤平くんの顔を見れなくて、机の上の教科書に目を向ける。
「なんにもないよ」
 どうせ嘘だってバレてるんだろうけど、今は詳しく話したくない。
「ほら、テスト近いし。今回、全部難しそうで嫌になっちゃうよね。単位落としたら三年から大変だし……」
「ヒナ?」
 私のごまかしを遮って、潤平くんが名前を呼ぶ。
「言いたくないなら言わなくてもいいけど、ずっとそんなんなら俺は黙ってないから」
 短い冬休みが終わって、また日常が始まっていた。一月の学校は、なんだかみんな浮き足立っているような気がする。早ければ一月の半ばから試験が始まって、すぐに長い春休みへと突入だ。春休みと夏休みの長さは、大学生の特権だ。
 テストが近いのも全部難しそうなのも落とすとまずいことも全部本当で、私は試験が終わるまで、一旦全て棚上げしようと決めた。家に帰ってもほとんど机に向かっていたし、学校でも空き時間は図書館に籠っていた。
 携帯は、いつも傍らに置いてあった。初めは気になるから遠ざけようとしたけれど、近くにないとそっちのほうがそわそわすることに気がついて、諦めていつも手が届くところに置くことにした。
 桐原さんからの連絡は、まだない。
 今はテストという逃げ場所があるからいいけど、春休みに入ったら、何かしらの答えは出さなきゃ、とは思う。今のまま自然に離れていくのだけは嫌だし、リサさんのショーの時にはすっきりした気持ちで会いたかった。
 やっぱり、春休みになったらちゃんと話をしに行こう。気まずくても、ずっと一人でモヤモヤしてるよりずっといい。
 そう決めると、少しだけ心が軽くなったような気がした。