納得いかない様子の私に、麻衣子さんが言った。
「私がこんなことを言えるのは、今は私のことを考えてくれているっていうのが、ちゃんと伝わるからかもしれないわ。自信があるから、寛容になれる。自信が持てなかったら、きっと辛くて一緒にいられない」
 自信、か。今の私には、全くないもの。
「さあ、もう休んで。体調が悪い時にいろいろ考えたって、後ろ向きになるだけよ」
 そう言って私の肩を宥めるように叩くと、お盆を持って部屋を出ていこうとする。ドアを閉める前に咄嗟に呼び止めると、なに、と振り向いた。
「変なこと聞いてごめんなさい。ありがとう」
 そんな私に優しく笑って、おやすみなさい、と言ってドアを閉めた。
 一人になって、もう何度考えたかわからない疑問を繰り返す。
 今好きなのは、優衣さんじゃなくて、私。あんなにはっきり言ったのに。
 勇気を出して、自分から近づいた。ちゃんと受け止めてくれた、初めはそう思った。でも、最後の最後に拒絶された。ごめん、なんて、そんな言葉聞きたくなかったのに。
 私のことを好きだと思ってくれるなら、どうして拒絶するんだろう。受け入れてくれないんなら、好きだなんてそんな甘い言葉、かけてくれなくて良かった。好きじゃないなら、そう言ってくれればいいのだ。
 私のこと、本当はどう思っているの? わからない、全然、理解できない……。
 麻衣子さんの言う通り、どんどん後ろ向きになっていく。もうやめよう、とりあえず、今は風邪を治すことだけ考えよう。
 電気を消して、布団をかぶる。なにも考えない、思い出さないようにしようと思うのに、彼の最後の声が頭から離れてくれなかった。
 ーーごめん。
 ごめん、なんて、言わないで。

 熱が引いても、心配したお父さんが家にいろと言い張って聞かなかった。私も一人でいたくなかったのもあって、結局年を越すまで実家から学校に通うことになった。久しぶりに自分以外の人が作ったご飯を食べて、洗濯も掃除もしてもらって。甘やかされているのがわかって、それが心地よかった。
 なにか連絡があるかもしれないといつもより携帯を気にかけて、鳴るたびに飛び付くのに、欲しい人からのメールは一向に届かなかった。私からもなにか、送ってみようと思ったけど、結局なんと送っていいいかわからなくてやめた。
 なにも進展がないまま、新年を迎える。初詣に行って、麻衣子さんと一緒におせちを作って、いつもより時給があがるバイトに精を出す。去年となにも変わらないのに、なんだか心にぽかっと穴が空いたような気がした。