「理由はね、モテそうだったから」
「え?」
「大学進学する頭もないしさ、就職するってなった時に、特にやりたいこともなくて。どうせならかっこいい仕事がいいなーって思ってたら、たまたま沢木さんのスタジオの案内が学校に来てて」
 あの時は、沢木さんがお祖父さんの代からの写真館を継いで、新しくスタジオに生まれ変わらせた時で、とにかく人が足りなかった。俺も、手伝って欲しい、とニューヨークから呼び戻されたのだ。向こうでの仕事に未練がないわけではなかったけど、恩人の沢木さんの頼みだったから迷うことなく引き受けた。
「そういう軽いノリで入っちゃったらさ、結構厳しいんだよね、この世界。体力仕事だし、疲れるのなんのって」
 初めは、こいつ半年ももたないんじゃないか、と思ったものだ。でも、なんだかんだ言いながら、仕事を任されるようになるまで食らいついてきた。
「写真の面白さ、みたいなものを、沢木さんとガクさんが教えてくれたんだよね。多分俺、相当ウザかったと思うんだけど、いつも嫌がらずに教えてくれて。こういう風に撮れるようになりてえ、って思ってたら、今まで続いちゃった」
 こいつのいい意味での単純さが、今まで続いた理由だと思う。素直で、いいと思った物はこだわりなく受け入れることができる。そういう部分は、日南子ちゃんに似ているかもしれない。
 スタジオにはあっという間に着いて、吉川の手も借りて荷物を降ろす。吉川は名残惜しそうにしながら、沢木さんのスタジオへと帰って行った。
 さて。
「ちょっと寄ってく? なにもないけど」
 わざわざ待っていたんだから、何か話でもあるのかもしれない。所在無さそうに隅っこに立っていた日南子ちゃんに声をかけると、彼女はほっとしたように頷いた。