それからまた長い道のりを運転して、プロダクション会社にたどり着いた頃には、もう日はとっぷり暮れていた。先に戻っていた鈴木さんと簡単にこの後の予定について打ち合わせる。俺の仕事はデータを使える形にして渡すだけで、その写真を広告として加工していくのは鈴木さんたちの仕事だ。
 話を終えて吉川の待つ車に向かう。俺の事務所に寄ってもらって荷物を降ろし、沢木さんから借りたものは車ごと吉川が持ち帰ってくれることになっていた。長い一日だったな、と思いながら歩いていると、玄関に立っている日南子ちゃんの姿が見えた。
 どうしたんだろう。ようちゃんの車で、とっくに帰ったと思っていた。
 近づくと、少し困ったような顔をする。
「どうかした?」
「一緒に帰れたらいいなあ、なんて思ったんですけど。そういえば今日、吉川さんの車なんですよね」
 正確には沢木さんのスタジオの車、だけど。一緒に帰るためにわざわざ待ってたのか。
「俺のスタジオに寄ってもらうから、そこまで乗っていけばいいよ」
 後ろの座席は潰れているけど、短い距離だし、荷物の隙間に乗っててもバレないだろう。
 二人で車に戻ると、助手席でボケっとしていた吉川が、慌てふためく。
「え、なんで道端さんも?」
「家が俺のスタジオの近くだから、乗せてくことになった。お前、運転席と後ろと、どっちがいい?」
 今日だけは優しくしてやってもいいかと、吉川に選ばせる。
「道端さんは助手席ですよね?」
「そう」
「俺が運転でもいいんすか?」
「言っとくけど俺のスタジオまでだぞ?」
「それでもいいです!」
 嬉しそうにする吉川が、なんだか哀れになった。ようちゃんに誰か単純そうな女の子を紹介してもらうべきだろうか。
 いそいそと運転席に座りなおす吉川を見ながら、後部座席の荷物の間に潜り込む。恐縮しながら助手席に乗り込む日南子ちゃんに、全然いいんすよ、と吉川が嬉しそうに声をかけていた。
 ガクさん、動きますよー、という吉川の声に、手を振って答える。そのまま、前の二人の会話を聞くともなしに聞いていた。
「道端さんは、今いくつ?」
「二十です。大学二年生」
「俺、二十二。近いねー。俺ももっと頭良かったら大学行ったんだけどな~」
「吉川さんは、なんでこの仕事をしようと思ったんですか?」
 吉川のくだらない与太話に日南子ちゃんが真面目に付き合ってあげている。