それからしばらく、時折ポーズを指定されたり、場所を変えたりしながら、撮影を続けていった。容子さんが髪を直してくれたり、鈴木さんがベールの端を持ってくれたり。吉川さんが何かを話すたびに、笑いが起こる。
 たまに、桐原さんがベールのズレとか手の位置を直接直してくれて、私はちょっとどきっとしながら、気にしていないフリを装った。彼の手が触れるたびに、そこに小さな明かりが灯るみたいで、その明かりがゆっくりと体中に広がっていって、私を体の中から照らし出す。
 徐々にステンドグラスを叩く雨の音が小さくなっていき、雨が上がる気配がした。そして、突然差し込んでくる光。
 みんなが手を止めて、頭上を仰ぎ見る。分厚い雲が切れて、ステンドグラスをめがけて光の束が降ってきた。
「キレー……」
 容子さんの声が響く。
 ステンドグラスが本来の色彩を取り戻して、太陽の光を受けてやわらかく輝いていた。その光が、祭壇のマリア像と、私の上にも降り注ぐ。
「日南子ちゃん、こっち」
 桐原さんに促されて、マリア像の前に立つ。
「さっきみたいに、膝ついてもらっていい? 左手あげて、顔もあげたままで。吉川、後ろ回って」
 言われるがまま、膝をついてマリア像を見つめる。さっきと同じ表情のはずなのに、なぜかさっきより喜んでいるように見えた。
 ステンドグラスに描かれた、優しい顔の天使たちが、地上の私たちを慈しむように見守っている。そして、すべてを許す微笑みを浮かべた、聖母マリア。
 とても穏やかな気持ちに包まれる。なにか暖かなものに……そう、お母さんの腕の中に包まれているような、そんな感覚。ほっとする。安心する。
「日南子ちゃん。こっち向いて」
 私を呼ぶ声に促されて、視線を向ける。
 好き。大好き。
 愛しい。幸せ。
 伝えたい。
「うん。ありがとう」
 心の声が伝わったとは思えないけど、穏やかにそう言われて、私は何故か、泣きたくなった。