抜けてるところは遺伝だな、って思うけど、他は似ていると感じたことがない。桐原さんの中の私のイメージってどんなのなんだろう。
「あのマリア像にも似てる。安心する、っていうのなんだかわかるな。ずっと昔からたくさんの人の懺悔を聞いてきたんだろうけど、どんなことでも許してくれそうな顔してる」
 深い悲しみも、怒りも、苦しみも、受け入れてくれる穏やかさ。
 カメラの向こうの桐原さんの顔を盗み見る。穏やかな微笑みの中に、いつか見た虚ろな寂しさが見え隠れしているような気がした。
 優衣さんのことを考えているんだろうか。
 左手、ちょっと上げて、と言われて、指輪を見せるように胸の前に持ってくる。
「俺の懺悔も、聞いてくれるかな」
「懺悔したいことなんて、あるんですか?」
「あるよ、たくさん。俺、悪いこといっぱいしてきたもん。日南子ちゃんはないだろうけど」
 懺悔したいこと、か。悔い改めたいこと。許してほしいこと。
「ありますよ、私にも」
 私は今、優衣さんに嫉妬してる。
 二人でいるときのことを何度も思い返すうち、桐原さんが私になにもしてこないのは、やっぱり優衣さんのことを考えているからなんじゃないかな、と思うようになった。彼の心の中を今でも独占している優衣さんが、ずるいと思う。どうしてこんなに長く、彼の心を縛り付けるんだろう。早く、優衣さんのことなんか忘れて、私のことを見て欲しいのに……優衣さんなんか、いなければ良かったのに。
 桐原さんの気持ちが変わるまで、どれだけでも待てると思ったのに。まだ数ヶ月しか経ってない、なのにこんなひどいことを考えてる。
「許してくれるかな、私のことも」
 天国の、優衣さんは。
 マリア像に向かって、膝をつく。手を組んで、目を閉じた。
 ――お願いします。彼の心を、私にください。
 ふわり、と肩にダウンが乗せられた。目を開けて顔を上げると、少し困ったような桐原さんが私の手を取って立たせる。
「休憩しよっか。少し暖まろう」
 桐原さんが容子さんの方を見ると、すぐに近寄ってきて、一回外しますね、とベールを取り外した。
 まだ撮り始めたばかりなのに、なんでもう休憩なんだろう。私、何かダメだっただろうか。
 答えを求めるように容子さんを見ると、容子さんはにこ、と笑ってくれた。
「ちょっとドレス、汚れちゃいましたね。今のうちに落としましょう」
「あ」