吉川さんに指示を出しながら、自分も機材を動かしている。照明の当て方を決めているようで、ドラマでよく見る傘みたいなものとか、白い板とか、薄い紙とか、いろいろなものを使っている。
立っているだけですることがないので、視線を巡らせて、改めて教会の中を観察した。全体的には簡素な作りで、ベンチと祭壇と横の方に暖炉らしきものがあるだけだ。ベンチの横の壁には幾何学模様の小さなステンドグラスが等間隔に並び、正面の祭壇の後ろにはそれよりも少し大きなステンドグラスが三枚、こちらは天使が描かれている。両脇の天使は横を向いて、真ん中の天使はちょうどマリア像を見守るように。教会のステンドグラスって無表情なイメージだったけど、ここの天使はみんな、少し笑っているような表情をしている。
祭壇のマリアは、目を閉じて腕を広げている。元は真っ白だったんだろうけど、年月を経て柔らかなクリーム色にくすんでいた。穏やかなその微笑みは、見る人間の心を落ち着かせてくれる。
「きれいだよね、それ」
いつの間にかカメラを構えていた桐原さんが私を見ていた。
「ここに入ってきた時も見てたけど。気に入った?」
「はい。すごくきれいで、なんだか安心する気がします」
「安心?」
時折シャッターを切りながら、話を続ける。ポーズの指示とかはされなかった。とりあえず、このまま話してればいいのかな。
「どうしてかわからないけど、お母さんを思い出して」
「お母さんって、どういう人だった?」
「すごく優しかったです。いつも笑ってるような人で、怒られた記憶はあんまりなくて。私が何か悪いことをしても、怒るよりも困った顔をするんですよね。叱られると反抗できたんでしょうけど、なんだかいたたまれなくなっちゃって、すぐに謝ってました。いいことをした時は手放しで喜んでくれて、料理が上手で、子供っぽいところがあって、遊園地とか私以上にはしゃいでて……あと、ちょっと抜けてた」
思い出すままに、お母さんの記憶を口にする。嫌な部分もあったのかもしれないけど、今はもう、大好きだったことしか思い出せない。
「日南子ちゃんに似てるね」
「そうですか?」
「うん。聞いてたらそのまんま」
立っているだけですることがないので、視線を巡らせて、改めて教会の中を観察した。全体的には簡素な作りで、ベンチと祭壇と横の方に暖炉らしきものがあるだけだ。ベンチの横の壁には幾何学模様の小さなステンドグラスが等間隔に並び、正面の祭壇の後ろにはそれよりも少し大きなステンドグラスが三枚、こちらは天使が描かれている。両脇の天使は横を向いて、真ん中の天使はちょうどマリア像を見守るように。教会のステンドグラスって無表情なイメージだったけど、ここの天使はみんな、少し笑っているような表情をしている。
祭壇のマリアは、目を閉じて腕を広げている。元は真っ白だったんだろうけど、年月を経て柔らかなクリーム色にくすんでいた。穏やかなその微笑みは、見る人間の心を落ち着かせてくれる。
「きれいだよね、それ」
いつの間にかカメラを構えていた桐原さんが私を見ていた。
「ここに入ってきた時も見てたけど。気に入った?」
「はい。すごくきれいで、なんだか安心する気がします」
「安心?」
時折シャッターを切りながら、話を続ける。ポーズの指示とかはされなかった。とりあえず、このまま話してればいいのかな。
「どうしてかわからないけど、お母さんを思い出して」
「お母さんって、どういう人だった?」
「すごく優しかったです。いつも笑ってるような人で、怒られた記憶はあんまりなくて。私が何か悪いことをしても、怒るよりも困った顔をするんですよね。叱られると反抗できたんでしょうけど、なんだかいたたまれなくなっちゃって、すぐに謝ってました。いいことをした時は手放しで喜んでくれて、料理が上手で、子供っぽいところがあって、遊園地とか私以上にはしゃいでて……あと、ちょっと抜けてた」
思い出すままに、お母さんの記憶を口にする。嫌な部分もあったのかもしれないけど、今はもう、大好きだったことしか思い出せない。
「日南子ちゃんに似てるね」
「そうですか?」
「うん。聞いてたらそのまんま」