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三月の終わりに発売された雑誌『パトリ』の、巻頭特集の見開きにどーんと私の写真が使われてから、にわかに学部内に友達が増えた。正確に言うなら、名前だけ知ってる同級生、だ。容子さんのサロンのページはもちろん、特集の最初のタイトルページにまで私の写真が使われていて、周りの人達にはすぐに気付かれた。
「『新しいワタシ発見! 恋する春髪』ねえ。あんた、やっぱり元がいいんだし、普段からもっと気合入れなよ」
お昼休み、混んでいる学食は避けて空き教室でごはんを食べながら、親友の松田愛香が雑誌を広げている。愛香は私が載っているページと目の前の私を交互に見比べて、あーもったいない、とため息をついた。
容子さんのおかげか桐原さんのおかげか、写真になって笑いかけている私は、自分でいうのはナルシストみたいだけど、すごく可愛かった。光の加減で優しい印象に見えて、ふんわりした雰囲気が春っぽくて。雑誌を見た友達は口々に褒めてくれたし、いつもは辛口の愛香でさえ、こうやって可愛いと言ってくれる。
愛香はもともとはっきりした顔立ちで、本人もそれをわかっていて、いかにキツく見えないか日々メイクの研究をしている。今日も授業とバイトしかないはずなのに、きちんとメイクして髪も軽く巻いていた。それに比べて私は、唇の乾燥が気になるから薬用のリップを塗っただけ。偶然学部もバイトも同じだった愛香とは、知り合ってすぐに仲良くなっていつも一緒に行動してるけど、オシャレに気を遣え、と口うるさく言うのだけはちょっとめんどくさい。
「いいの、私は。その写真はプロによる魔法がかかってるだけなんだから」
「あのね、そのままじゃ、例の甘党の残念イケメンに忘れ去られちゃうよ?」
投げやりな返事をする私に、愛香が呆れた目を向けた。
撮影が終わってすぐ、愛香に撮影の様子を話した。もちろん、愛香が目撃した甘党の男性がカメラマンだった、というのも話すと、すぐに興味がそちらに移る。問われるがまま桐原さんの話をする私を見て、愛香は言った。
「ヒナ、その男に惚れたね?」
ヒナも恋バナできるくらい成長したか、とうんうん頷きだして、慌てて否定する。ただ一日一緒に仕事をしただけで、彼のことなど何も知らない。惚れたなんて、そんな大げさな話じゃない。
「かっこいいな、って思ったのは事実だけど、好きとかそんなんじゃないから」
「なに言ってんの、あんたの話し方、まんま恋する乙女じゃない。鈍いしぼんやりしてるし、全然男に興味を示さないあんたが、かっこいいな、なんて思った時点でもう恋なのよ」
強引で、さりげなく失礼なことをきっぱり言い放って、ニヤニヤしている。
「連絡先とか聞かなかったの?」
「聞けるわけないじゃんそんなの」