隣の容子さんと話しながら、次第に眠気に襲われ始める。滅多に車に乗ることがなかったのでわからなかったけど、どうやら私は朝に限らず、長く車に揺られると眠くなってしまうことに最近気がついた。理恵さんの運転も桐原さんの運転も寝ちゃったし。
「寝てても大丈夫ですよ? 着いたら起こしますし」
 容子さんはそう言ってくれたけど、運転してくれている鈴木さんに申し訳ない。無理やり目を覚まそうと持参したミントの飴を口に放り込む。
「些細なことまで気を使ってしまう人だ、と聞いてましたけど、その通りですね」
 運転席の鈴木さんが苦笑する。
「そんなこと、誰が?」
「桐原さんが」
 意外なところで評価されていたことに、少し照れる。
「下世話な興味で気を悪くされるかもしれませんが。道端さんは、桐原さんの恋人ですか?」
 あまり仕事以外の話はしない人だと思っていたから、鈴木さんからその質問が出たことに少し驚いた。
「違います。多分」
 私の言葉に、今度は容子さんが驚いた声を上げる。
「え? 付き合い始めたんじゃなかったんですか?」
「一緒に出かけたりはするんですけど。付き合おう、とかそういうこと、言われたわけじゃないし」
 それに、私のことをちゃんと恋愛対象としてみてくれているのか、最近自信がない。
「言葉にしてないだけじゃないですか? 私、ガクさんと付き合い長いですけど、女の子にあんなに甘ったるい顔するの、初めて見ましたよ?」
「……甘ったるい、ですか?」
「そりゃあもう。さっきだってあんなとろっとろの顔してたじゃないですか」
 見てて砂吐きそうでした、と容子さんは言うけれど、私には普段の笑顔と何が違うのかわからない。
「そんなこと、ない、です」
 否定してみたけど、容子さんは不満顔。
「僕も羽田さんに賛成です。今回のロケ場所も、随分頑張って探していたみたいですよ?」
 鈴木さんにもそう言われて、嬉しいけれど、でも素直には受け取れない。二人とも、優衣さんのこととか、知らないし。
「外から見てたらじれったすぎです。ヒナちゃんはもっと自信持ちましょう」
 容子さんの言葉に、ただ曖昧に笑ってみせた。