「あとはなるべく晴れてくれるといいんですけど」
『そればっかりは神のみぞ知る、ですね』
 室内の撮影だけど雨が降ると気温が下がる。それに、できれば太陽光がステンドグラスから差し込む様子を押さえたい。天気予報は今のところ晴れだけど、この時期の予報は半分は外れる。
 簡単に確認事項をさらって、電話を切る。窓に近づいて空を見上げた。
 今日は雨だ。
「ほんと、撮影日晴れるといいっスね」
 並べた機材を片付けながら、吉川が言った。
 手持ちにない機材があったので、沢木さんのスタジオに借りに来て、ついでに吉川とも打ち合わせを済ませていた。吉川は俺が独立する直前までアシスタントでついてくれていたので、気心も知れてるしやりやすい。
「まった辺鄙なとこで撮るんだって?」
 珍しくパソコンと向かい合っていた沢木さんが部屋から出てきた。
「鈴木が見つけてきたんだろ? さすがだな」
「鈴木さん、知ってるんですか?」
「あそことは最近よく仕事するんだよ。鈴木は今年になってどっかから引き抜いてきたらしいけど、いっつも仕事が早くて助かる」
 ふわああ、と大きなあくびをしながらコーヒーメーカーに手を伸ばす。時間が経って煮詰まったくらいのコーヒーが沢木さんの大好物だ。俺は昔、一口飲んで、あまりの苦さに吐き出したことがある。
「理恵が会いたがってたぞ。今年いっぱいで産休入るから、その前に一緒に仕事したかったって」
「そういえば、入籍おめでとうございます。理恵のお父さん、手強かったでしょう?」
「まあな。今年中に婚姻届出せないかと思った」
「俺のせいですね」
 カメラマンという職業に先入感があるに違いない。しかも、結婚前に妊娠したとなったらなおさらだ。嫌でも優衣を思い出すだろう。
 すみません、と呟く俺の頭を、沢木さんが結構な強さではたいた。
「いってぇ」
「アホか。あの時のお前と俺様を一緒にするんじゃねえ。自分の甲斐性のなさを人のせいにするほど俺は落ちぶれちゃいねえんだよ」
「すみません」
「まあ手こずったけど、最終的に認めてもらったんだからいいんだよ。子供が生まれりゃ親父さんもなんか変わるだろ」
 ……てことはまだ、わだかまりは残っているんだろうな。
 また謝っても殴られるだけだから、口には出さなかったけど、やっぱり申し訳なく思う。