結局そのままリサさんと小川さんが潰れて、飲み会はお開きになった。西さんと保志さんがそれぞれ送り届けるらしい。宇野さんが、いつものことなのよ、と笑っていた。
 私は家の方向が一緒の愛香と二人、のんびり歩くことにした。そこそこ遠いけど歩けない距離じゃないし、酔い醒ましにちょうどいいや。
 火照った顔に冷たい風が気持ちいい。今年は雪は多いだろうか。
 ねえ、と呼びかけられて生返事をすると、真面目な声で愛香が言った。
「もしなにか悩んでることがあるんなら、ちゃんと言いなさいよ?」
「うん?」
「さっきの話。私はなんにも聞いてなかったけど」
 なんだか恥ずかしくて、愛香にはなにも言ってなかった。今までなんでも愛香にアドバイスしてもらっていたから、こういうのは初めてかも。
「ありがと」
 お礼を言うと、愛香がふん、と鼻を鳴らす。
「あんたが一人で考えてたってだいたい悪い方にばっかり向かうんだから。きちんと吐き出しなさいよね」
「そういう愛香だって、なんか隠してるでしょ? なんで保志さんにあんな冷たいの?」
「あの人、信用できないのよ」
「なんで?」
 初めて会ったときは、普通に接していたはずだ。なのになんで今日、いきなり信用できなくなるんだろう。
 そう尋ねると、愛香がしぶしぶ、という感じで答えた。
「一回寝た」
「えええっ?」
 思わず立ち止まって叫んだ。いつの間にそんなことにっ?
「付き合ってるの?」
「付き合ってるわけないでしょ、あんな男っ」
「じゃあなんで? 保志さんのこと嫌いだけど、そういうことになっちゃったの? まさか無理やり……」
「そういうわけじゃないけど」
 表情を見る限り、言うほど嫌ってるわけじゃなさそうだけど。
「保志さんは愛香のこと好きそうだよ? 問題なくない?」
「あんなの本心じゃないに決まってる。あの男と付き合うとか、ない」
「……よくわかんない」
 正直に言うと、愛香が呆れたように言った。
「人それぞれいろいろあるのよ。あんたはわかんなくていい」
「でも、私にだってちゃんと相談してね?」
 こと恋愛に関しては、私はいつだって愛香に頼りきりだ。私だってちょっとは役に立ちたい。
「わかってるわよ。ありがと」
 愛香がちょっと笑って言った。
 改めて、恋愛って難しいな、と思う。好きな人に好かれて、それでちゃんとうまくいくと思ってたけど、現実はそうでもなかった。いろんなすれ違いとか、思い違いとかがあって、全然思うようになってくれない。相手の気持ちがわかるような魔法の道具があればいいのに、なんて本気で思う。
 でも最近、そうやって悩んだりするのも、人を好きになることの大事な部分なんだろうな、とも思うのだ。
 今は思い切り悩めばいいのかな。
 こうやって恋愛にのめり込めるのも、今だけなのかな、なんて、リサさんたちの就職の話を聞いて思った。今年ももうすぐ終わり、なんだか去年よりも過ぎるのが早かった気がする。来年や再来年はもっとあっという間で、気がついたら卒業になってるのかもしれない。
 愛香がいつの間にか、立ち止まって空を見つめていた。今日は空気が澄んでいるのか、いつもよりたくさんの星が見える。冬の空気って、ほかの時期よりももっと透明な気がする。
 ――今やりたいことやればいい。いつか後悔しないように。
 いつかの桐原さんの言葉が、ふっと脳裏をよぎった。