そういう雰囲気、になりかけたことは何回かあったのだ。私の頬に手が触れて、じっと視線が注がれる。私はドキドキしたけど全然嫌じゃなかったし、その先、も期待してたし、嫌がる素振りなんて絶対に見せなかった。でも、その手はその先には進まなくて、いつもふっと視線が外されて、ぽんぽん、と頭を撫でられるだけで終わってしまう。
 私だって気にしていた。そういうこと、に消極的な人ではないことは知っている。私の意思はあの夏のことでわかってるはずだし、例えあの時のことはナシにしても、これだけ一緒にいるのにキスすらしてもらえないなんてありえるんだろうか。恋愛経験値が皆無に等しい私には、桐原さんが考えてることがわからない。
 ……聞いてみようか。ここには経験値豊富そうな男の人が三人もいる。もうここまで喋らされたんだから、恥ずかしいこともないだろう。なんせ酔ってるし。
 思い切って、男の子三人が座っている方へ向かって正座する。
「あの。率直な意見をお聞きしたいんですが。女の子と二人でいて、そういう雰囲気になったとして、女の子は嫌がってないのに途中でやめちゃうのって、なんでだと思いますか?」
 最初に答えてくれたのは保志さん。
「よっぽど苦手な子か、破滅的にブサイクな子が相手だった」
「そ、そこまで嫌われてないと思うんですけど」
「じゃあわかんないや。僕だったら即ヤっちゃう」
「亮介の意見は聞いちゃダメよ、ヒナちゃん」
 宇野さんの忠告をありがたく聞き入れて、西さんの方へ向き直る。
「え、俺そんなのわかんないよ、そういうのあんまり詳しくないし」
 西さんが慌てて顔の前で手を振った。意外と初心なタイプらしい。
 最後に潤平くんの方を見ると、あからさまに嫌そうな顔をされた。
「それ、俺に聞く?」
 ……だよね。明らかに無神経だよね。
 しゅん、とする私を見て、しょうがないなあ、というふうにため息をついた。
「よくわかんないけど。大事すぎて逆に手が出せない、ってこともあると思うよ」
 潤平くんの言葉に、隣のリサさんも同意する。
「確かにねー、ガクさんのことだからそういう感じなんだろうけど。でも、ちょっと大事にしすぎじゃない?」
 もうキスくらいいいでしょ、とリサさんが呟く。
「ねね、どうしたら手出したくなると思う?」
「それこそ俺に聞かないでください。俺は今すぐにでも出したいんだから」
「……潤平くんってほんといい子ー」
 潤平くんの頭を撫でるリサさんの手を、西くんがヤメろ、と振り払っていた。