アウトフォーカス

 ふふふー、と笑いながら、ニヤニヤしたリサさんが、ところでさー、と話題を変えた。
「ガクさん、どうだった? 上手だった?」
「何がですか?」
「何が、って、エッチ」
 バッとリサさんの体を引き剥がした。
「なに言ってるんですか、いきなり!」
「えー、だって、リサと初めて会ったとき、そういう話したじゃん」
「私はしてません! リサさんが一人でしてたんです!」
「そうだっけえ? まあいいや、で、どうだった? あの指はキモチ良かった?」
「リサさん、変態!」
 お酒のせいじゃなく顔を真っ赤にする私を哀れに思ったのか、宇野さんが助け舟を出してくれた。
「梨沙、セクハラやめなさい。ヒナちゃんが困ってるでしょ。男性陣もいるのに」
「僕たちはなんにも聞いてないから気にしなくていいよ?」
 しれっと保志さんが言う。
「ほら、ほっしーもああ言ってるしー」
「梨沙!」
「そ、そういうこと、まだなんにもしてないですから!」
 私が勇気を振り絞って言ったのに、リサさんはえー、と不服そうに頬を膨らませる。
「ガクさんちょっと慎重すぎじゃないのー? じゃ、キスは? キスは上手だった?」
「キ、キス、も、まだです……」
 蚊の泣くような声で言うと、その正反対の店内に響き渡りそうな声でリサさんが叫んだ。
「えー? キスもまだ!?」
「ちょ、リサさん声おっきい!」
「だってデートしてるんでしょ? 一緒にご飯食べたりドライブ行ったりしてるんじゃないの?」
「それは、しましたけど」
「そんで一回もそういう雰囲気にならなかったのっ?」
「ぜ、全然ならなかったわけじゃないですけど……っ」
 約束していた紅葉も見に行ったし、何回か食事もした。自然に手も繋げるようになったし、助手席も慣れた。夜は車で送ってくれる。