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ジュエリーショップの広告の依頼は、桐原さんから話を聞いた後、すぐに瀬田さんから連絡が来た。瀬田さんが間に入って簡単なマネジメントのようなものをしてくれるそうで、ギャラの相場とかよくわからなかったから、ありがたくお任せした。あなたは当日来てくれればそれでいいから、と言われて、安心する。
十二月初めの土曜日、リサさんに呼ばれて、また三人揃ってリサさんの学校にお邪魔した。ショーの衣装の大枠が固まったので、雰囲気をチェックしたいから一度着てみてほしい、とのことだった。
私たちはまだデザインも何も見せてもらってなかったから、ようやくお目見えかと、愛香と二人わくわくしてはしゃいでいた。潤平くんはそんな私たちを落ち着いた様子で見ている。
潤平くんはいつぐらいからか、私を戸惑わせるような態度は取らなくなっていた。今でも一緒に授業を受けるけれど、すっかり頼れる男友達。気持ちの変化はなんでかはわからないけれど、私にとってはすごく助かる。
三度目で慣れた校舎を、実習室に向かって教えられた通りに歩く。実際に洋服を作る場所で、今日はそこに集合だった。階段を上ると、案内に出てくれたらしい保志さんが待っていた。
「久しぶり」
保志さんが何故か愛香だけに向かって言った。愛香のほうはというと、爽やかな笑顔を振りまく保志さんを胡散臭そうに見ていた。二人の間になにかあったのだろうか。
保志さんはそんな愛香に動じず、こっちだよ、と実習室まで案内してくれる。扉を開けると、壁際に並んだミシンの前に、他のみんなが集合していた。その傍らに、布がかけられた胴体だけのマネキンが四体並んでいる。
「あ、来た来た。待ってたよーん」
相変わらずリサさんは元気だ。
とりあえず座って、と宇野さんに丸い椅子を差し出され、マネキンと向かい合うように座る。
「じゃあじゃあ、お待ちかねのお披露目ね」
「って言ってもまだざっくりとしかできてないけどな」
だからはしゃぐな、と西さんがリサさんの頭を抑えている。この二人のじゃれあいも、相変わらずだ。
一体に一人ずつついて、布に手をかける。リサさんのせーの、という声で、四体一斉に布が取られた。
「わあ、可愛いっ」
感嘆の声を上げて目を輝かせる私と愛香に、リサさんがへへ、とはにかむように笑う。
「テーマは『シンデレラ』と『カルメン』。メインコンセプトが『STORY』だったから、たくさんある『物語』の中から、梨沙と圭太が一個ずつ選んだんだって」
後ろから保志さんが説明してくれる。
真っ白のシンプルなアイラインの形をベースにサテンのリボンやレースがあしらわれた膝丈のワンピース。それに合わせたように白の生地で作られたジャケットとパンツは、さりげなくボタンやフリンジがあしらわれている。もう片方はボルドーのような深い赤色の、アシンメトリーなラインのドレスと、もっと濃い黒に近い色のジャケットスタイルの上下。タキシードまでカチッとしていないんだけど、それに近い感じ。
どっちがシンデレラでどっちがカルメンか、ひと目でわかった。
「テーマを決めていくつかデザインは出してたんだけど、モデルが決まってから選んだんだ。さあ、誰がどれを着るでしょう?」
子供がなぞなぞを出すように、リサさんがおどけてみせる。