意外といいやつだったんだな、と心の中で彼の評価が上がった。自信満々のいきがったガキだと思ってたのに。
「言っときますけど、ヒナが少しでも心変わりしたら逃しませんから」
 そう言う彼の目は挑むようだったけど、以前のような不快感は感じなかった。
「わかってる」
「ならいいです」
 少しやり方が強引なだけで、こいつはこいつで、ちゃんと彼女のことを思っているんだろう。
「なになにー、男同士で秘密の話?」
 戻ってきたリサちゃんの賑やかな声が、場の空気を和ませる。
「今日のリサちゃんがなんでそんなにご機嫌なのかっていう話」
「えー、別にいつも通りだよ?」
「俺はてっきりまだご立腹だと思ってたよ」
 電話のことをほのめかすと、あー、あれね、と呟く。
「あの時はずっるい大人、ってムカムカしたんだけど。ずっるいわけじゃなかったみたいだし」
 ちらっとリサちゃんが松田君を見ると、彼はややげんなりとした顔をした。
「俺のことは気にしないでください。ヒナ本人から嫌というほど聞いてます」
 わーかわいそー、とあまりかわいそうに思ってるようには聞こえない声に、彼がさらに肩を落とす。
「なんだかんだ言ってちゃんと大事にしてあげてるみたいだし。ヒナちゃんすっごい幸せそうだし。まあ好きにやらせとけばいいかー、って思ってさ」
 元来あまり物事にこだわらない性質であろうリサちゃんは、怒りも持続しないのだろう。
「潤平くんには申し訳ないけど、やっぱりヒナちゃんにはガクさんじゃなくっちゃね。ねえねえ、野乃花とかどお? あの子なら即付き合えるんだけど」
「ただ女漁りしたいだけみたいに言わないでください」
「だって愛香ちゃんがあいつは生粋の女好きだ、って言ってたんだもん。さみしいのかな、って思ってさ。ね、じゃあ、紗雪は? でもあの子手ごわいしなあ。あ、いっそほっしーと禁断の世界へ………」
「勘弁してくださいよ」
 はしゃぐリサちゃんとうんざりする松田君の微笑ましいやり取りは、その日の撮影中ずっと続いていた。