編集の子が電話をしている間、リサちゃんが席を外した。松田君と二人きりになり、なんとなく黙っているのも気が引けたので、質問してみる。
「随分撮られ慣れてるけど、もしかしてモデル経験ある?」
 俯いてスマホをいじっていた松田君は、俺から声をかけられるなんて思っていなかったのか、少し驚いたように顔をあげた。
「ガキの頃、ちょっとだけモデルやってました。母親に無理やり連れて行かれて。って言ってもショッピングセンターのチラシとかでしたけど」
 なるほど。きっと小さい頃から綺麗な顔をしてたんだろう。
「友達にからかわれたことがあって、辞めました。それからは全く関わってないんで、経験と言えるかどうか怪しいですけど」
「その割には様になってる。向いてるんだな」
「どうも」
 ずいぶん素っ気ない返事だった。そつなくみんなにいい顔するタイプだと思ってたけど、俺に対してはその仮面はかぶらないらしい。まあ、初対面であれだけ挑発しておいて、いまさら愛想を振りまく必要もないだろうけど。
 また沈黙が流れて手持ち無沙汰にカメラをいじっていると、今度はあっちから声がかかる。
「あの。この前、失礼な態度とってすみませんでした」
 手元に目線を落としながら、しおらしく謝罪の言葉を口にした。
 リサちゃんといいこいつといい、今日はどうした?
「別に気にしてないけど。俺に謝るなんて、どういう心境の変化?」
「ヒナが最近やたらと幸せそうなんで」
 それとこれと一体なんの関係が?
「愛香に楽しそうに話してるのが嫌でも聞こえてくるんですよ、あなたとどこへ行ったとか、何を食べたとか。挙句お土産とか渡してくるし、さすがの俺もへこみます。友達でいいとは言ったけど、もう少し意識しろよ、って」
 はあ、とため息をついて、顔をあげて俺を見る。
「あなただって、俺には関係ない、好きにしろ、みたいな突き放したこと言っときながら、ちゃんとヒナの相手してるじゃないですか」
 卑怯です、とはっきり言われて、俺には返す言葉がない。
「別に、無理やり波風立てようってつもりはないんですよ。ヒナがいいならそれで。あなたより俺の方がヒナには合ってる、と思ってましたけど、そうでもないのかな、って最近思うようになったので」