ジュエリーショップのモデルの話を切り出すと、日南子ちゃんがきょとん、とした顔をした。
「広告用の写真に、私を?」
「そう」
「なんでですか?」
「依頼主が気に入ったんだって。柴田の店のホームページの写真、見たらしいよ」
 幸せそうに頬張っていたピザを飲み込んで、少し不安そうに小首をかしげる。
「私でいいのかな?」
「日南子ちゃんじゃないとダメなんだって」
 あれだけはっきり日南子ちゃんで、と言われたのだから、相当気に入られたんだろう。
 グラスに入っていたペリエを一口飲んで、今度は上目遣いでこちらを見る。
「撮影は、桐原さん?」
「そう」
「じゃあ、やります」
 そう言うと思った。自分で、と強く推されれば、断れない性格だろうことは既にわかっている。
 瀬田さんから話を聞いた次の日に、ちょうど日南子ちゃんと食事をする約束をしていた。この予定を知っていたのではないかと疑うくらい、ベストなタイミングで話をしてきた瀬田さんが恐ろしい。
 シェアしようと頼んだトマトソースのパスタを取り分けながら、彼女がこちらを窺う。
「もしかして、引き受けない方がいいですか?」
「なんで?」
「あんまり嬉しくなさそうな顔をしてるから」
 そんなに気持ちが表情には出ないタイプなはずなのに、しっかり見抜かれていた。少し意識して表情を和らげる。
「そんなことないよ。実は日南子ちゃんに断られたら俺への依頼もナシになるところだったから、やってくれるなら助かる」
 皿を受け取りながら笑って見せると、彼女が少し驚いた顔をする。
「そんなことあるんですか?」
「普通はないけど、瀬田さん、って、パトリの編集長からの紹介だから。ちょっとクセがあるんだよ、あの人」
 俺の言葉に、ああ、と納得する素振りを見せる。彼女も瀬田さんの思いつきに振り回された、いわば被害者なので、思うところがあるのだろう。
「正式な依頼は、多分会社の方からあると思うけど。一応先に承諾の意思は伝えておくから」
 そう言うと、もの問いたげに俺を見る。
「桐原さんのご迷惑には、なりませんよね?」
「もちろん。断られる方が困る」