「俺、母親の妹に引き取られたんだけど、俺が小四の時にそこの子供は五歳と三歳で、必然的に子守とかさせられてさ。そんだけちっちゃかったらわがまま言うの当たり前なんだけど、それでも屈託なく好きなこと言ってるのが、当時はすごくイライラして。多分、羨ましかっただけなんだろうけど」
 小四なら、まだ十歳。まだまだお母さんに甘えたかっただろう。
「だから子供、って苦手だったんだけど。そうだな、優衣が妊娠してるって聞いた時、無条件で嬉しかった」
 そこで一旦言葉を切って、私に尋ねる。
「こういう話、聞くのイヤじゃない?」
 気遣うような目線に、私は首を横に振る。
「聞きたいです。なんでも」
 そっか、と頷いて、また話し始める。
「優衣が死んだあとから、小さい子にやたら目がいくようになって。可愛いな、って思うんだよね、やっぱり。むこうの子供とか、金髪で青い目で、本物の天使みたいな子、いっぱいいたよ」
 一口お茶を飲んで、目線を落とす。
「無事に産まれてたらどんなのだったかな、って考えるときもあったし」
「……今でも?」
「今はさすがに考えない。もし産まれてたら今頃十歳だよ? でかすぎて想像できないし」
 もし優衣さんが死ななかったら、桐原さんは今頃どんな人生を送っていたんだろう。子供と三人、もしかしたらもっと賑やかに、幸せに暮らしていたんだろうか。
 確実なのは、私には出会っていなかった、っていうこと。
 ふわあ、と桐原さんが大きなあくびをした。私でさえぽかぽか陽気に眠気を誘われるのに、運転してきた桐原さんはさぞかし疲れているだろう。
「眠いです?」
「うん、ちょっと。昨日ギリギリまで仕事しちゃって。……ごめん、ちょっと寝てもいい?」
 そう言うなり、そのままごろん、と寝転んだ。
 芝生の上だけど、シート越しに感じる地面は結構硬かった。枕がわりになりそうなものを探すけど、私が着ているカーディガンくらいしかなくて、これじゃああまりに薄すぎる。
 ふと目をやると、ベンチに座って子供に膝枕をしてあげているお母さんの姿が目に入った。
 ……彼女でもないのに、ひかれるかな、さすがに。
「頭、痛くないですか?」
「ん、そういえばちょっとだけ」
「じゃあ、あの。嫌じゃなければ、どうぞ」
「え?」
 いそいそと正座をする私を不思議そうに見て、体を起こす。私の視線を辿って、ああ、と呟いた。