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出掛けるのは翌週の日曜日になった。家の前まで迎えに来てくれる、という桐原さんを待ちながら、鏡を見て最終チェックをする。日程が決まったあと、速攻で容子さんに連絡して、自分でもできるヘアアレンジを教えてもらった。自分では器用な方だと思っているのに、扱い慣れない髪をまとめるのは難しくて、容子さんのスパルタな特訓のおかげで何とか形になった。崩れてないか、変じゃないか、すごく気になってしまう。
今日も嬉しいことに、とってもいい天気だった。昔はよく運動会とか遠足とか、雨で延期になったりしてたのにな。日頃のがんばりを神様が見てくれているのか、それとも桐原さんが晴れ男なのか。
あまり車通りのない道に、見慣れた黒い車が入ってくる。助手席に乗り込むと、桐原さんがおはよう、と笑ってくれた。前の時よりも、ドキドキするのはなんでだろう。今日一日、一緒にいられるんだ、と思うと、自然に笑みがこぼれる。
「調べたら、高速使えば一時間ちょっとで着くみたいだ。結構山奥」
「なんだか山ばっかり行ってますね」
「ほんとだ。じゃあ今度は海にでも行こうか」
今度、というフレーズに、またまた頬が緩む。桐原さんの中に、今度、があるんだ。
「実は行ってみたいところいっぱいあるんです。海もいいけど、これから秋だし、紅葉とか、美術館とか、ちょっと遠くのおしゃれなカフェとか」
「全部行くのにどれだけかかるかな」
ちょっと調子に乗りすぎかとも思ったけど、彼は嫌そうな素振りを全く見せることなく、順番にね、と笑ってくれた。
何気ない優しさが、私をつけあがらせていく。それがただの知人への好意なのか、それとも愛情が含まれているのか。ちょっとは思い上がっても、いいのだろうか。
車が走り出してからは、二人とも自然と口をつぐんでいて、車内に微かに流れる音楽が耳に心地よく響いた。他の人だとこうやって沈黙になると、気まずくてなにか話さなきゃ、って焦るけど、桐原さんと二人の時にそうなったことはほとんどない。というか、沈黙自体が珍しくて、いつも先回りして話を振ってくれていた気がする。こうやって静かになっても大丈夫だと思ってもらえるくらい、心を許してくれたってことだとしたら、とても嬉しい。
途中少しの会話を挟みながら、一時間はあっという間で、迷うことなく目的地についた。駐車場に車を止めて、少し歩くと芝生の広場と木の建物が見えてくる。そして、その先に広がる景色を見て、思わず歓声をあげた。
一面に広がる花、花、花。ピンクの中に赤や白が混じって、風に吹かれて揺れている。一輪一輪はちっちゃいのに、これだけ集まって咲いていると圧巻だ。コスモスの間を散策できるようになっていて、家族連れやカップルが花の間に見え隠れしていた。