『ぜんっぜん仲良くないです! ……いえ、仲良くないわけではなくて、授業とかよく一緒になるし、よく話すから仲良くはなったんですけど、でもそれだけだし、潤平くんは他の子にも人気あるし』
 彼女が言葉を重ねるほど、近い距離にいることがはっきりしていく。
『私のことなんかちょっと興味あるなー、くらいで、すぐに飽きます、きっと』
 すぐに飽きる程度の相手のために、あんな風に他の男を牽制したりしないだろう。
 やっぱりこの子は、無防備だ。
『だから潤平くんのことなんて気にしないでください。忘れてください。なかったことにしてください』
「わかった」
 あまりに必死に言い訳をするのが、嬉しい。
 嬉しいと、思ってしまった。
「今度、いつ空いてる?」
『はい?』
「次の休み。どっか行こうか」
『……』
「日南子ちゃん?」
 沈黙が続いたので、しまった唐突すぎたかと後悔しかけると、一拍置いて聞いてるこっちが赤面しそうな声で一言、はい、と答えた。
 今、彼女はどんな表情で微笑んでいるんだろう。電話越しでしか様子を伺えないことが、こんなにももどかしい。
『それって、昼間ですか? それとも夜?』
「一日、のつもりだったけど。どっか行きたいとこある?」
 彼女が少し浮かれたような声で話す。
『ちょっと遠くでもいいですか?』
「日帰りできるならどこでも」
『隣の県なんですけど、冬はスキー場で、今の時期コスモスがばーっと咲いてるところがあるらしいんです。昨日ちょうど友達が話してて、羨ましいなあと思ってて』
「じゃあそこにしよう。俺が空いてる日、後でメールしとくから、そこから選んで連絡して」
 詳しい時間はまた今度決めることにして、電話を切る。手にしたスマホを放り投げて、大きく息を吐いた。
 思いつきで誘ってしまった。今日に限って、なんでこんなに口が勝手に動くんだ。
 どんどん深みにはまっていくのが、自分でもはっきりわかる。彼女が俺の頭の中を、すごいスピードで占領していく。声だけじゃ足りない。会いたい。触れたい。……なのに不安になる。理由もないのに、いつかいなくなってしまう、という怖れがいつもある。
 自分の中のコントロールできなくなっていく感情が、いつか自分だけじゃなく彼女を傷つけるかもしれないことが、怖かった。