◆

 サロンに戻ってからの撮影は順調だった。撮影という行為自体に慣れたのもあるだろうけど、何より俺という人間に慣れたのが一番大きいだろう。終始リラックスした雰囲気で、自然に笑顔を向けてくれていた。
 もともとすごく表情の豊かな子なんだと思う。感情が素直に表面に出てくるから、見ていて明るい気持ちにさせてくれる、人を惹きつけるタイプの子。無事に撮影が終了して、ひとりひとりに頭を下げている姿が、なんだか微笑ましかった。
 歩いて帰れるから大丈夫、という彼女をようちゃんが無理やり車に押し込んで、家まで送っていった。店に残って簡単にデータの確認をしていると、横から理恵が画面を覗き込んできた。
「掘り出し物だったわね、彼女。色彩豊か、っていうか人目を引く表情よね。うちの雑誌の読者モデル、頼んじゃおうかしら」
 理恵が編集をしている雑誌は、読者モデルが複数所属していて、イベントや特集の撮影といろいろと駆り出されている。学生や他に仕事を持っているような子がほとんどだ。
「それに……なんとなく、似てない?」
 誰に、とは言わなかったけど、伝わった。俺もそう思っていたから。
「一緒の顔のお前に言われたくないだろ」
「顔じゃなくて、雰囲気がよ。なんていうか、つい目で追っちゃう感じ」
 確かに記憶の中の彼女も、人の目を惹きつける雰囲気を持っていた。冷静な理恵とは正反対で、少し抜けたところがあって、どこか放っておけなくて。俺は目を離せなくて、いつも視線で追っていた。
 あの時。舞い上がる髪を押さえて振り向いた道端さんが、遠い昔の記憶に重なった。
 ――私のこと、ここでキレイに撮ってね、ガク。
 いつもは思い出したりしないのに、あの場所だったからか、この時期だったからか。道端さんの仕草や表情が、記憶の中の別の女性とどことなく似ているような気がして、心がざわついた。顔立ちは全く違うので、俺だけがそう感じているのかと思ったけれど、理恵にもそう見えたんならやはり似ているんだろう。
「全然似てないよ」
 心の中とは正反対のことを口にして、自分の片付けを始める俺に、理恵は何かを言いたげな視線を向ける。あえてその視線は無視した。今まで散々言われてきたことを、もう聞く気はない。
「……写真、楽しみにしてるわ」
 一つため息をつくと、何を言っても無駄だと思ったのか、理恵はそこであっさりと話を終えた。