挑戦的な笑顔を浮かべて、そいつがカメラの前に立った。
「よろしく」
 多少なりともみんな最初は緊張するのに、そいつは全くそんな素振りを見せない。
「あなたの話、たまに聞くんですよ。松田愛香、ってわかります?」
 撮影の最中も、笑顔を浮かべながら話しかけてくる。松田愛香? 聞いたことあるような、ないような。
「じゃあ、道端日南子」
 一瞬止まった俺の手を見て、面白そうに顔を歪める。
「……友達?」
 思い出した。松田愛香って、あのファミレスの子だ。二人ともK大の文学部だったはず。
 気にしないフリを装いつつ、撮影を続ける。
「愛香とはそこそこ仲いいです。ヒナとは最近よく話すかな」
 呼び捨てにムカっとした。態度に出さないように努めて平坦な声を出す。
「そう」
「前からヒナと話してみたかったんだけど、愛香のガードが固くって。ちょっと強引に行こうかな、って最近思い直したんですけど」
 黙々と撮ることに集中する。理恵が会話の内容に気付いて、様子を伺っているのがわかった。
「最近すげえ可愛くなりましたよね、あいつ」
 だから、といきなり真顔になった。
「俺、本気で落としに行こうかな、と思って。いいですよね?」
 そいつはまたにこっと笑った。
「なんでそんなこと俺に聞く?」
 カメラをおろして直接視線をぶつけてやると、怯むどころか真っ直ぐ見返してきた。
「一応、了承を得といた方がいいかな、と思って。なんていうんですか、宣戦布告?」
 しばらく睨み合っている俺たちを、なんの事情も知らない他の子達が怪訝そうに見ている。……子供相手に、何ムキになってるんだ、俺は。
「好きにしたら?」
 先に視線を逸らした俺に、勝ち誇った笑みを浮かべてそいつが言った。
「どうもありがとうございます」
 そんな俺たちを、理恵が心配そうに見比べていた。