「なんかイラっとした顔してるわよ?」
 男子学生を三人引き連れて戻ってきた理恵が、気遣うように俺を見た。
 今日はパトリの新しい読者モデルのカメラテストに呼ばれていた。春・秋と就活や卒業で稼働できる学生が減るので、いつもこの時期に新しいモデルを募集している。一応、カメラテストなんてものも行うのだけど、書類選考の時点で採用はあらかた決まっているので、ちょっと撮影に慣れといてもらおうか、という程度のものだ。
 イライラを引っ込めて、仕事用の顔で彼らに向き合う。自薦だか他薦だか知らないけど、モデルに応募してきただけあって、整った顔をした奴らばっかりだ。
 その中で一人、異常に強い視線を向けてくる奴がいた。三人の中でも際立って綺麗な顔をしていて、女装でもさせたら似合いそうな顔立ちだ。
 目が合ったのでなんとなく口元だけで笑ってみせると、そいつもアイドル顔負けの笑顔を返してくる。……なんなんだ?
「じゃあ、一人ずつカメラの前に立ってもらおうかな」
 よくわからないそいつは無視して、一番手前に立っていた子から撮影を開始する。白の背景にライティングもちゃんとして、カメラテストといえど真剣に撮っていく。その写真は後ほど、彼らの紹介写真に使われるらしい。
 撮影中もずっとその男から強い視線が感じられて、気になって仕方がなかった。全く見覚えはなかったので、初対面のはずなのに、その視線の中にそこはかとなく敵意を感じる。
 なんとなく後回しになったその男の、応募書類に目がいった。松田潤平、K大文学部二年……。K大?
「よろしくお願いします。カメラマンの桐原サン?」