「おい、人に働かせといて、なんでお前は飲んでるんだよ?」
「悪い悪い、道端さんがあんまりにも可愛くてさ」
 おどけて言う柴田さんの頭にのしかかりながら、私の方を見る。
「日南子ちゃん、大丈夫? こいつになんか変なことされてない?」
「なんにもされてません。話相手になってくれてただけで」
「奥さんいるのにするわけねーだろー、ってイテテ」
「紛らわしいこと言うお前が悪い」
 そのまま腕で頭を締め上げる姿を見て、思わず声を出して笑ってしまった。
「ほんとに仲いいんですね」
「そう、こいつ昔から俺にぞっこん……って痛えって」
「もうちょっとで終わるから、待ってて。おい、どこ撮って欲しいんだよ」
 そのままじゃれあいながら打ち合わせをして、痛がる柴田さんに連れられて、カウンターの方へ移動していった。
 柴田さんや理恵さんや沢木さんのように、桐原さんのことを心から心配している人が、きっと他にもたくさんいるんだろう。家族、ではないけれど、家族のように桐原さんのことを思ってくれている人。彼に、その思いは届いているんだろうか?
 窓から広がる星空を見上げる。優衣さんも、この中の一つになって今でも彼を見守っているんだろうか。
 少し温くなったカクテルに口を付ける。さっきは感じなかった微かな苦味が、舌に残る。
 よろしくね、って、前にも言われた。
 私はいつか、優衣さんという絶対的な存在の、代わりになれるんだろうか。そしていつか、優衣さんよりも大きな場所を、彼の心の中に作れるのだろうか。
 ーーほんと、私の恋愛能力をはるかに超えた人を、好きになっちゃったなあ。
 知らず知らずため息をつきながらカクテルを傾けていると、桐原さんが戻ってきた。
「ちょっとだけ、協力してもらってもいい?」
「はい?」
 ちょっとこっち、グラス持ってきて、と手招きされてついていくと、さっきまで真っ暗だったテラスに、キャンドルがどこかから移動されて並べてあった。ここ立って、と示されて、木製の手すりにもたれるように立つ。手すりの上にも何個かキャンドルが並べられていた。
 たくさんのキャンドルのぼんやりとした明かりが足元から、頭上からは微かな星あかりが降り注ぐ。
「ちょっとだけ、体ごと横向いて。……そう。顔はこっち」
 にわか撮影会みたいになって、ちょっと恥ずかしかったけど、撮られるということに慣れたのか、前みたいにカチカチにはならなくなった。いつの間にか、柴田さんもテラスに出て、桐原さんの後ろからこちらを見ている。
 風が気持ちいい。もう、九月も終わる。ひんやりした風が、頬を撫でていった。
 桐原さんの穏やかな声が、優しく私の名前を呼ぶ。
「日南子ちゃん、笑って」
 私はできる限りの笑顔で、その声に応えた。