「私の、片想いです」
 とりあえず、確かなことだけ言ってみた。
「は?」
「私は桐原さんが好きなんですけど、桐原さんは私のことは別に好きじゃないです」
「……はあ」
「私がたまに、事務所に会いに行ったりします」
「はい」
「今日は、予定が空いてるなら付き合って、と言われました。以上です」
「……くっ」
 くっくっくっ、と、何がそんなに面白かったのかお腹を抱えて笑いだした柴田さんを、どうしようもなく見つめる。
「あの、なんか私、変なこと言いました……?」
 必死で笑いを止めようとしているんだろうけど全然成功してなくて、思いっきり顔を歪めながら柴田さんがグラスをとった。
「ご、ごめ、失礼だよね……くくっ」
 笑いながら一口お酒を飲んで、ふう、っと息をつく。
「ごめんごめん、真面目に面白いこと言うもんだから、つい笑っちゃった」
「面白いこと、でした?」
「いや、君にとっては真剣だもんね、ほんとごめん」
 もう一口お酒を飲んで、ちょっと真顔になって言った。
「意外、って言ったのは悪い意味じゃなくて。ガクから女の子連れて来る、て聞いてたけど、いつもみたいに後腐れなさそうな子かな、って思ってたんだよ。そしたら君みたいな純情そうな子が来たから、ちょっとびっくりしただけで」
 微かに口元を緩める。
「本気になれる子が見つかったのかなあ、ってちょっと嬉しかったんだけど」
 その言い方に、理恵さんや沢木さんと同じような雰囲気が感じられて、思わず聞いてしまった。
「柴田さんは、桐原さんの昔の話をご存知なんですか?」
「昔、って、中屋妹のこと?」
 こくん、と頷くと、逆に意外そうな目で見られた。
「大体はね。詳しくは知らないけど。ってことは、君は知ってるんだ?」
 またこくん、と頷く。
「桐原さんが、話してくれました」
「あいつが? 自分で?」
「はい」
「……そっか」
 そっか、そっか、とどこか嬉しそうに繰り返して、おもむろにグラスを取り上げる。
「道端さん、だっけ」
「はい」
「あいつのこと、よろしくね」
 そう言って、私の前に置かれていたグラスに、自分のグラスをこつん、とぶつけた。
 そこにちょうどいいタイミングで桐原さんが戻ってきた。