「ううん、全然大丈夫です。一人でぼんやりするの、得意なんで。それより、柴田さんこそここにいていいんですか?」
「キッチンは奥さんがちゃんと仕切ってるから、俺はいてもいなくてもいいの」
「奥様がお料理されるんですか?」
「そう。奥さんがキッチン担当、俺はホールとドリンク担当。もともとバーテンダーやってたんだ、俺」
 だからノンアルコールのカクテルなんて勧めてくれたんだ。
「ガクにも久しぶりに会うし、実は混ぜてもらおーかなー、なんて思ってたんだけど、どうやらお邪魔虫みたいだな」
「そんなことないです。むしろ私がお邪魔虫で、ごめんなさい」
「謙虚だなー。さっきも謝ってた」
 笑いながら、どうやら自分のグラスを持ってきていた柴田さんが、座っていい?と椅子を指差した。頷くと、サンキュ、と座っておいしそうにグラスを傾ける。こちらはどうやらアルコールだ。
 話し相手になってくれる、ってことだよね。さっき気になったこと、聞いてみようかな。
「あの、さっき意外って言ったの、何が意外だったんですか?」
「うん?」
「一番最初、私を紹介された時、意外、って言ってませんでした?」
 もしかして私の聞き間違いかな、と思った時、ああ、と思い出したように言って、それからうーん、と唸りだした。
「あのー……?」
「いや、一応確認しときたいんだけど。君、ガクの彼女?」
「違います」
 これだけははっきり言える。彼女ではない。
 すっぱり即座に答えた私に驚いて、柴田さんが目を丸くする。
「でも、仕事仲間、ってわけじゃないよね。さっき二十才って言ってたし、学生さんじゃないの?」
「えっと、学生なんですけど、パトリっていう雑誌の読者モデルをさせてもらってるんです。桐原さんにも撮ってもらったことがあって」
「ああ、中屋のとこの雑誌ね。それで?」
「それで?」
「……それだけ?」
「それだけ」
「……。彼女じゃなくて、セフレ?」
「違いますっ」
 迫ったけど断られました、とはまさか言えまい。
 柴田さんがまた首を捻り始める。
「よくわかんないんだけど、じゃあ、君とガクはどういう関係なんだろう?」
 難しい質問に、今度は私が首を捻る。どういう関係? たまに差し入れを持っていくただの知り合い? いやいや、もうちょっと気に入ってもらえてるような気も……。