「なんか好きなの飲んでて。酒でもいいし。ってまだ未成年だっけ?」
「もう二十です。飲めます。でも、あんまり得意じゃないので、アルコール以外がいいかも」
 それを聞いて柴田さんが提案してくれる。
「ノンアルコールのカクテルなんていかがですか?」
「じゃあ、それで」
 只今お持ちします、とわざとらしく丁寧な口調を崩さない柴田さんに顔をしかめながら、カメラを持って二人仲良さそうに話しながら歩いていく。仕事以外で誰かと話しているのを見るのは初めてだから、なんだか新鮮。高校の同級生、って言ってたけど、そうやってじゃれあって話をしている姿は、普段よりも幼く見えた。
 ひとり残された私は落ち着かず、店内を見渡す。カウンター席が八席と、テーブル席がここを入れて五席、ゆったりと配置されていて、テーブルは全て大きな窓のそばで景色を楽しめるようになっている。カウンターの中はバーみたいにたくさんのお酒が並んでいて、柴田さんがお酒を作っていた。こじんまりとはしているけれど、そこここに配置されたキャンドルがふんわりとあたりを照らし出して、優しい雰囲気だ。テラスにもテーブルが置いてあるから、外でお酒を飲むこともできるらしい。今日は定休日だそうで、この空間を贅沢にも独り占めしている。
「ほんと素敵」 
 今まで街の居酒屋か、よくて大箱のダイニングバーに学生同士の飲み会でしか行ったことのない私は、その雰囲気にただ見とれる。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。ありがとう」
 呟いた私の声に答えるように、シルバーのトレーを器用に片手で持った柴田さんがやってきた。顔を上げると、さっきの人懐っこい笑みを向けてくれる。
「ガク、今外観撮ってるから。しばしお待ちを」 
 小ぶりのお皿には一口サイズの前菜が色とりどりに並べられていて、見るからに美味しそう。続いて置かれたカクテルグラスには、オレンジ色の鮮やかな液体が注がれている。
「どうぞ、お姫様」
「え?」
「シンデレラ、っていうカクテルなんだ、それ」
 無邪気ににこにこしている柴田さんには他意はなさそうで、私は一人で照れながらグラスを傾ける。
「おいしい」
 柑橘系の爽やかな甘さが広がって、くどくない。
 ありがと、と微笑んだ柴田さんが、気遣うように話しかけてくれる。
「一人で居心地悪くない?」