どんどん人影がなくなっていって、家の影もまばらになったころ、木に囲まれたログハウス風の建物が見えてきた。
 車から降りると、ライトアップされた建物の奥に一面の星空が広がるのが見えて、なんだか一枚の絵みたいだ。
「晴れててよかった」
 隣の桐原さんが空を見上げて呟く。この景色を、彼の目はどう映しているんだろう。やっぱり構図とかアングルとか考えたりするのかな。
 行こっか、と促されて、玄関の階段を上る。両脇にキャンドルが配置されていて、幻想的な世界に足を踏み入れたみたいだった。余計な人工的な明かりはなにもなくて、山の中に建てた気持ちがよくわかる。
 桐原さんが木製のドアを開けると、中から陽気な声が響いた。
「おう、ガク! 来てくれてサンキューな」
 黒いシャツに腰から下の長いエプロンをした男の人が駆け寄ってくる。背は高めで、短めに刈り込んだ髪が清潔感を感じさせる、人懐っこい感じで笑う人。
「久しぶり。オープンおめでと。いい店だな」
「ありがとなー。いやー、自分で言うのもなんだけど理想通りに仕上がってさー……」
 途中で私に気がついて、こちらに目を向けた。
「こんばんは?」
「あ、こんばんはっ」
 ぴょこんと頭を下げた私をなぜだか不思議そうに見る。
「仕事で知り合った道端さん。一人連れてくる、って言ってあっただろ?」
「あの、図々しくもついて来てしまいました、スミマセン」
 私の言葉に二、三回瞬きをして、その人は桐原さんを見てにかっと笑った。
「なんだよ」
「いやー、なんか意外というか……いや、いい、いいんだ。はじめまして、ガクの高校の同級生の柴田(しばた)です。今日はゆっくりしてってね」
 後半は私に向けて言って、にっこり笑ってくれた。その笑顔に私も少しほっとする。
「先に写真、撮っちゃいたいんだけどいい? 日南子ちゃんには少し待ってもらうことになるんだけど」
「あ、私のことはお気になさらず」
「でもお腹減ってるでしょ? 先に適当に頼んどく?」
「ううん、待ってます。一人で食べるの、私もヤだし」
 私たちのやり取りを見守っていた柴田さんが、ではとりあえずお席に、と口調を改めて席に案内してくれた。一番奥、他より少しだけ高くなっていて、大きな窓から木々と空が見渡せる。
「お連れ様に、先にお飲み物と簡単な前菜でも、ご用意いたしますか?」
「その口調やめろ。気持ち悪い」
 鬱陶しそうに言って、桐原さんが私に目を向ける。