いつまでも、この場所にいたい。と思ったけれど、次の日というのは来るもので、また味気ない学校生活が始まったんだ。



 僕は、朝目覚めて。顔を洗いに行こうかな。と立ち上がった時に、ふと少女のことを思い出したんだ。



 そうだ。なんだか胸がトキメくなぁ。と思ったら、昨日は素晴らしい出会いがあったんだった。



 今日も放課後になったら、中央公園まで散歩してみるか。




 登校中、いつもどおりの景色が全く違って見えていた。


 空の色はより鮮やかに、街路樹たちはより美しく、自販機は魅力を増していた。



 理由はもう分かっていた。

 僕が住んでいるこの町には、昨日出会ったあの少女がいる。


 あの少女が、この世界に存在している。ただそれだけの事実が、僕にとっては途方もなく嬉しく感じた。



 くだらない学校生活の、くだらない教師の話が、いつもより鮮明に感じた。


 
 僕は、学校の中の景色を、よく思い出せないことがある。

 
 でも、今日はなんだか可笑しいくらいに周りの景色が鮮やかに見えたんだよね。


 木の椅子の感触とか、傷んだ机の感じとか、黒板のチョークの汚れとか、


 そういう、何でもないありきたりな光景が、素晴らしいものに感じるんだよね。



 なんか、今日に限ってノートを取るのが楽しかったし。


 でも、時間だけは本当に長く感じたんだよね。


 もう、早く中央公園に行きたかったからさ。それで、早くあの少女と話がしたかったからさ。



 いつもより輝きを増した学校の中で、僕はその一秒一秒を、すっげぇ長く感じていたんだ。



 それで、昼休みになって、お弁当を食べるんだけどさ。


 そうそう。母さんが作ってくれたやつね。これが結構、美味しいんだよ。



 母親には感謝だね。


 おっと。ちょっと話が反れた。

 
 その弁当、いつもと変わらない味なのにさ。なんだか、いつもより美味しく感じるんだよね。


 それで、いつもより早く食べ終わっちまったよ。その後、ちょっと脈拍が上がっていたんだ。


 僕はできるだけ早く少女に会いたいなぁ。って思っていたからね。



 僕の行動の一つひとつが、駆け足になっているようなんだ。




 それと今日は珍しく、友達とはお話ししなかったよ。まあ、僕は周りの人たちからネクラな奴だと思われたく無かったから、ある程度は会話をするようにしていたんだけど。


 僕は基本、向こうから話しかけてくれるまでは、黙っていたんだ。



 そしたら一日中話しかけられなくてさ。
 ちょっと残念だったよ。



 まあ、嫌われているとか、イジメられているとかいう訳じゃないから、いいんだけどね。


 それで、ようやく授業が終わって下校時間になったんだ。



 僕は、一目散に中央公園に向かったんだ。あの少女に会うために。