中央公園は、静かだった。


 風もあまり無く、今は鳥たちの鳴き声さえも聞こえていなかった。


 僕は彼女からの回答をしばらく待っていた。


「うーん。つい最近な気がする」

 と、彼女は答えた。

 夕日が、だんだんと濃くなってきた。それで公園の中は、全体が赤く染まっている。


 少女の白いワンピースが夕日に赤く染まっていた。

「お腹、すいてない?」

 僕は心配になって彼女に尋ねてみた。


「すいてない」

 と少女は答える。


 それで、しばらく沈黙が辺りを支配した。


 もう夕日は完全に落ちて、少女の顔の輪郭がハッキリしないほど暗くなったとき、カラスが一羽、飛び立った。


 暗くてよく見えなかったけど、少女はとても不安そうにしていた。


「ねえ。また遊びに来て」


 紺色に染まった景色の中で、少女の声が聞こえてきた。


 僕は彼女に近づいた。


「…………私は、動けないから」

「…………ここで夜を過ごすの?」

「分からない。でも、怖がらないで話しかけてくれて嬉しい」



 僕は、彼女のその声を聞いたとき、なんていうのかな。ちょっ胸の奥から熱いものが込み上げてきたよ。



 それは、表現がとても難しいんだけど。

「かわいそう」とか「悲しいね」とかそういう気の毒になるような感情とはまた違ったんだ。


 かといって「可愛らしい」とか「ケナゲだな」とかいう感情ともまた違う。



 ここは本当に、僕の住んでいる町なんだろうか。


 いつも通る中央公園なんだけど、夕日が沈んだ後の、この場所はまるで別世界で。


 バカみたいに静かなんだ。



 それで、ひび割れた少女と、僕と、二人きりでしょ?


 彼女の名前は、僕は知らないけど。


 気づくと、木々たちの隙間から満点の星空が見えるんだよね。



 もうそんなに時間が経ったんだ。って感じだよ。


 学校で、授業を受けている時とは大違いさ。


 ここは時間の流れが違って進むのかもしれないな。



 学校なんて意味のない場所より、いつまでも、いつまでも、ここに居たいなって。そんな感傷的な気持ちになっちまったんだよね。



 思わず、彼女と約束しちゃったよ。

「明日もまた、会いに来るね」


 そしたら彼女は、嬉しそうな声で、


「うんっ!」

 って、喜んでいたんだ。こっちまで、なんだか嬉しくなっちゃったよ。


 あーあ。今夜は満月だよ。どうりで月明かりが眩しい訳だ。