「あの、こんにちは」


 自分でも情けなくなるくらいの、弱々しくて自信のなさげな声が出ちゃったよ。


 恥ずかしくてさ。あーあ。もう完全に不審者に決定されちまったよ。


 そう思って僕は、絶望的な感情に一瞬だけなったんだけど、以外にも彼女は僕の挨拶を返してくれたんだ。


「はい。こんにちは」


 透き通るような、優しい声だった。柔らかくて、聞いているだけでウットリしちゃうような。そんな魅力のある声。


 そんで、彼女の胸の辺りから生じているひび割れが、

 パキッ。

 って音をたてながら、また空間に広がったんだ。


 あれは絶対に見間違えなんかじゃないよ。確かに、空間そのものが割れていたんだ。


 ちょっと驚いた。
 僕はこれから、どうやって目の前の少女と会話を続けるか、悩んでいた。


 こういう時にコミュ力が問われるんだよね。肝心な時に限って言葉がうまく出てこない。

 彼女の胸から空間にかけて広がっている「ひび割れ」を僕はジッと見つめる事しかできなかったんだ。



 そしたら、彼女は僕の考えていることを読み取ったらしくてさ、



「これ? 綺麗でしょう? ガラス細工みたいで。よく分からないけど、私、これのせいで動けないんだ」


 目の前に広がっているひび割れを、少女は手のひらで、優しくなぞるような素振りをする。

「……でも、初めて見る人は、ちょっと驚くかもしれない。だって、グロテスクだもんね!」


 少女は悲しそうな表情を浮かべていた。
 少女は、ただの通行人である僕のために、必死に言葉を選んで、それを伝えようとしてくれている。



 僕も、何か彼女と言葉を交わさないといけない気がして、心の底から思っていることを伝えてみることにした。



「……幻想的だと思うよ。ステンドグラスみたいで」


「……うふふ。嬉しい」


 彼女は依然として、もの悲しげな表情を変えなかったが、僕の言葉で傷ついている様子も無かったから、ちょっと安心した。


「ねぇ。君はいつから、そこにいるの?」