あんまり彼女の顔を見つめているのも良くないと思ってさ、目を反らしてまたベンチに座って足を組んだんだけど、


 どうしても気になって。ふともう一度、その少女のことを見たんだ。


 なんかちょっと違和感があった。


 それで、僕は気がついたんだ。その違和感の理由。


 その女の子の……まわりの空間に、ひび割れが生じていたんだ。


 何を言っているのか理解されないかもしれないけけど。

 そうだねぇ。彼女の胸の辺りから……空間そのものに亀裂が入っていたんだ。



 空気がまるでガラスみたいに割れていて、その、ひび割れが彼女の身体から発せられていたんだ。


 僕は一瞬、目を疑ったよ。

 いや、最初はビニールシートかなんかを広げているのかな?


 と思ったんだけど、いくら目を凝らしても、空間そのものに亀裂が生じているとしか思えないんだ。



 その女の子のは、優しく目を瞑っていてさ。眠っているようなんだ。


 もしかしたら精巧な形をした人形なのかもしれない。と本気で思ったんだけど、


 
 ちょっと動いているんだよね。明らかに、人間の少女が眠っているんだよ。


 さっきまでは気が付かなかったけど、もしかすると、ずっとこの場所にいるのかもしれないな。と考えてみた。



 すると、どこからか春の匂いを含んだ風が吹いてきて、その少女の髪の毛をふわっ。って揺らしたんだよ。



 それで、彼女はゆっくりと目を開けたから、なんと僕と目が合ってしまったんだ。



 やべっ。って思ってさ、目を反らそうとしたんだけど、その少女の顔立ちがあまりにも美しかったせいで、僕の視線は固まって、動かせなかったんだよね。


 でさぁ。僕ってもしかしたら美人さんに弱いのかもしれないね。


 あんまりジロジロ見ていると、もしかしたら「見てんじゃねぇよ!」とか言われるかもしれないじゃん。


 ちょっと怖かったんだけど、以外にも彼女は、ニッコリとした笑顔になって、僕に向かって首を傾げてきたんだ。



 もうビックリしちゃってさ。僕、その場で腰を抜かしそうになったよ。マジで。


 で、相手が僕を認識したのに、僕はなにもしないっていうのは、無視をしているような気がして嫌だからさ。


 なんか、気の利いたことを言いたいなって思って、ちょっと勇気を振り絞って話しかけてみることにしたわけ。