そしたら彼女は、すぐに答えたんだ。妖しげな笑顔でさ、
「うふふ、秘密だよ」
って。満面の笑みで、そう言ったんだよ。
ちょっとびっくりしちゃってさ。それで、僕のほうから先に名乗ることにしたんだ。
「僕は、晃っていうんだ。杉沢晃」
「良い名前だね」
彼女はやはり、彼女自身の名前を名乗ることはなかった。
「ねえ。もっとお話をしよう?」
少女は嬉しそうにそう言うんだ。
これだけ綺麗な顔立ちをしているのに、話し相手が僕しかいないみたいでさ。
なんだかちょっと、気の毒にも、申し訳なくも思ったよ。
「いいね、じゃあお話ししよう?」
だから僕はしばらく彼女と話をすることにしたんだ。まあ、お喋りするためにこの公園に来たんだけどさ。
そのひび割れたままの空間の中でさ、少女は嬉しそうに、言うんだよ。
「私……ひび割れが治ったら、学校に行きたいな」
ってさ。
僕は学校はあんま好きじゃなかったんだけど、その時だけは、学校が魅力的なものに思えたね。
「今までは、学校に行ってたの?」
僕は、疑問に思ったことを彼女に聞いてみたんだ。
「うん。保健室登校だったけど」
「そっか」
たしか僕の高校にも、保健室登校っていう制度があったよな、と思う。
「この近くなの? 君の通っていた高校って」
「うん。A高校」
その時とき僕の心臓の鼓動ははね上がったよ。A高校ってのは、僕が通っている高校だったからね。
思わず前のめりになってさ、少女に言ったんだ。
「えっ! マジで? 僕もA高校だよ。何年?」
「一年……入ったばかりなんだけど、すぐにひび割れが始まって、それで最近はこの場所にずっといるんだ」
ということは、僕の一個下の年齢か。15歳か、誕生日が早ければ16歳だな。