「いい?」
母がちらっと顔を見せた。大吾は毛布を払い除け、素早く身体を起こした。
「どした? 買い物行くなら付き合うよ」
実家に戻ってから、母の買い物の荷物持ちは大吾の役目になっている。
一八五センチに八六キロという野球で鍛えた逞しい体躯だから、日々の食材を持ち運ぶくらいはなんの苦労もいらない。親孝行なんて大袈裟な話でもないと思っている。
「今日は買い物はだいじょうぶよ」
母は幼い子どもみたいにぶるんと頭を振った。
「じゃあ、なに?」
「あのね、大吾」
部屋に入って来て、母は大吾の前にちょこんと座った。小柄だから、まさにちょこんという感じに見えた。
大吾も思わず正座をした。
なんでかしこまっているんだろう。なにか緊急事態だろうか。肩に思わず力が入った。
「毎日毎日、就職のことばかり考えてたら滅入るでしょう? そりゃあ、早く決めちゃいたいって気持ちはわかるんだけど」
「え?」
拍子抜けした。難しい話ではなさそうだ。
「そればっかりになってたら良くないと思うのよ、お母さん」
母はなぜかもじもじとエプロンの裾を弄る。身体通りの小さな手だ。
「あ、そうかもね」
大吾は曖昧に首を傾げた。
就職活動一辺倒になっている自覚はある。そのことで自分を追い詰めてもいる。
いつまでも実家でだらだらしていたくないのだ。
営業職で過労気味だったのだから、少し身体を休めてからと考えるのも間違いではないだろうけれど、大吾はのんびりというのがどうしてもできない。
小学生のときに野球をはじめ、以来、学校も練習も試合も全力投球で突っ走って来た。立ち止まったり、休んだりする癖はついていない。