ターミナル駅で乗り込んだバスの乗客は終点に近づくにつれて減っていく。 
 いま車内にはしずくとあとふたりしかいない。
 みな目的は同じだろう。時間的に考えても。

 地下鉄の車内からあまり読み進んでいない文庫本を開いたまま、しずくは既に生温くなったペットボトルの緑茶をこくんと飲んだ。
 朝ご飯を食べて来なかったことが、いまになって響いていた。バスに乗る前におにぎりでも菓子パンでも買っておけばよかった。

 そう長くいるわけではないし、用事が済んでからどこかの店に行けばいいと思っていたけれど、空腹はなかなかにしんどい。
 もう緑茶では誤魔化せない。
 さっきから、眠りから覚めて母親を探す子犬の鳴き声みたいに、きゅうきゅうとお腹が鳴っている。


 ――終点の近くにはお店はなにもないんだよなぁ……。


 改めて「失敗」を自覚する。

 しずくはまた緑茶を飲んだ。滑り落ちていく温い液体がまた空腹を刺激した。きゅうっとお腹の中の子犬が一際大きく鳴いた。