「姐さん、これ置かせて」

 挨拶もなく入って来た青年がよく通る声で軽やかに言う。

「ちょっと待って」

 真幸は声の主を見ようともせず、ちゃっちゃとフライパンの中の豆を仕上げていく。砂糖も味噌も焦げやすいので、眼を放せないのだ。

「おう」

 青年は短く答えると、カウンターの角席に腰かけたようだった。椅子を引き、とんとなにかを置く音が聞こえた。
 彼はその席が好きだ。絶対にそこでなければいやというわけではないのだが、何人かの仲間と顔を出してもテーブル席ではなく、角席を含んだ数席を選ぶ。
 胡麻を加えて「味噌豆」を完成させてから、真幸はカウンター内を移動した。青年の真ん前に立った。