逃げたくて仕方がないが、ふたりに挟まれるように座らされているせいで隙を見つけられそうにない。というか逃げて困るのは結局俺自身だ。

 しかしだからといって集中できるわけでもない。

 室内は十人は座れる横長の机が向かい合うような形でいくつも設置されており、前方と左右にはそれぞれの座席を区切るための仕切りが設けられている。各座席には照明まで完備、まさに勉強するための空間といった感じだ。部屋も教室と同じくらいの広さでスペースは申し分ない。

 だが、俺のように普段から勉強する習慣のない人間はこういった空間だと逆に集中できないのだ。そわそわしてどうにも落ち着かない。

 みんなよくこんな空間で勉強ができるな。
 仕切りで姿は見えないが、向かいの席からはカリカリとペンを動かす音が絶えず聞こえてくるし、通路を挟んで背中合わせになっている後ろの子はヘッドホンをつけたままひたすら教科書を読みこんでいる。

 そして、そんな様子を観察できてしまう程度には俺は勉強をしていない。

「誠くん、本当は部活行きたくないの?」
「そんなわけないだろ」
「じゃあどうして手が止まっているのかな?」
「……頑張ります」

 やばい、いつもにこにこしている冬木の目がマジになっている。

「私のことは千歳先生、もしくは千歳と呼びなさい」
「よろしく冬木」
「……むう」

 冬木は残念そうに頬を膨らませた。全然マジな目じゃなかった。

「そんなに千歳って呼ばれたいのか?」
「うん」
「へー」

 まあ呼ばないけどな。もう冬木で定着してしまったし。
 そんなこんなで、中間テストに向けての勉強会が始まった。毎週の土日と、テスト期間は放課後も。

 テニスをやる時間は、お察しだ。